社会問題になって30年 「過労死」防ぐ一歩…いつ?

関西テレビ ニュースアンカー 2013年12月9日 午後6時台放送
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「過労死」を防ぐ法律の制定を求める52万人分もの署名が、先月、国会議員たちの手に渡されました。
「過労死」は、1980年代に社会問題となりました。
それから30年近くが経つにも関わらず減る気配はありません。
今、働く人や家族たちの思いが、法律という形になろうとしています。

【西垣迪世さん】
「これから働く若い人たち・お父さんたちに、息子と同じように働くことによって亡くなるということがないように、どうぞこの過労死防止基本法が制定されますように、どうぞご協力をお願いしたいと思います」

国会議員が集まった集会で、切実な思いを訴える西垣廸世さん(69)。
息子を過労で亡くしました。
過労死を防ぐ法律の制定は西垣さんたち遺族の悲願です。

【超党派議連事務局長・泉健太衆院議員】
「我々議員連盟の思いも一つ。多くのご遺族の皆さまのお話や手記を見て、これを放置しておいていいのかという一点であると思っています」

この法律を議員立法として成立させようと、ことし6月に超党派の議員連盟が結成され、衆議員と参議院合わせて124人の議員が参加しました。
遺族たちの思いが国会を動かし始めています。

神戸市に住む西垣さんは7年前、一人息子の和哉さんを亡くしました。
27歳の若さでした。
和哉さんは、世界につながる仕事がしたいと親元を離れ、神奈川県の大手IT企業でシステムエンジニアとして働いていました。

【西垣さん】
「帰ってきた時には息子は私に小さなプレゼントをくれました。それが今つけているダイヤのネックレスです。息子からの初めての大きなプレゼントですから、あの子も私にこういうことをしてくれるそんな年になったんだなって、嬉しく思いました」

しかし、過酷な労働環境が次第に和哉さんの心と体を壊していきます。
ひどい時には朝9時から翌朝8時半まで働き、30分の休憩の後にまた夜中まで働きました。
そして、過労からうつ病を発症しました。

【和哉さんのブログより】
「なんか働き出すまでに思い描いてた肖像と違いすぎます」
「生きてるんじゃなくて死んでないだけ。毎日生きてて楽しいですか?何のために生きてるのですか?」

和哉さんは休職と復職を繰り返し、入社4年目の時、治療薬を大量に飲み、亡くなりました。
裁判の末、和哉さんの死後5年以上が経ってようやく「過労死」だと認定されました。
会社側はそれまで「心理的負荷の総合評価は『中』程度にとどまり、過労死ではない」と主張していましたが、判決を受けて西垣さんに謝罪し、労働条件の改善を約束しました。

【西垣さん】
「こういう勤務実態が日本の社会にあるんだなと。それも決して小さな会社ではない、大きな会社でも当然のごとく行われている。そのことに愕然としました」

去年1年間で、過労によってうつ病やくも膜下出血などの病気になって労災が認定された人は813人と、過去最多を更新しました。
しかし、労災の認定までには長い時間と労力がかかるため、泣き寝入りする人も数多くいるとみられています。

和哉さんと会社の同期で、親友だった木谷晋輔さん(35)。
会社の評価では和哉さんと上位を争うシステムエンジニアでしたが、木谷さんもまた、激務の中でうつ病になりました。

【木谷晋輔さん】
「西垣が頑張っているから俺も頑張らなきゃみたいなところがあって。結果的には限界を超えてましたっていう感じで…。まともに会社に通うのが困難な状態になっていた」

薬がないと眠れなくなり、多い時には10種類ほど飲んでいました。
休職と退職を繰り返した末に会社を辞め、今は生活保護を受けながら治療を続けています。
自分が病気になるとは想像もしなかったといいます。

【木谷晋輔さん】
「氷河期と言われている時代でちゃんと就職もできて、なんだかんだ順風満帆かなっていう感じではあって、大きな挫折を初めて経験したというのが休職に始まった感じですね」

【西垣さん】
「皆さま、過労死防止のための署名にご協力ください」

西垣さんたち「過労死を考える家族の会」は、弁護士や支援者とともに2年前から過労死をなくす法律の制定を求めてきました。
「過労死等防止基本法」。
弁護士や大学教授が遺族の声を反映して骨子案を作り、議員連盟で法案としてまとめられました。

【骨子案の作成に携わった関西大学・森岡孝二教授】
「具体的に細かなルールなり様々な規制を盛り込むという種の法律じゃなくて、過労死をなくしていくための法的な基本の枠組みを作ろうというのがこの法律ですね」

法案ではまず「過労死はあってはならない」という原則が示されています。
その上で「防止対策を国や自治体の責務とし、事業主には努力義務を課す」こと。

そして、「国などが実態の調査・研究を行って基本計画を作り、遺族などの協議会を設置する」ことが盛り込まれました。

【骨子案の作成に携わった関西大学・森岡孝二教授】
「国の調査ができていない、実態把握ができていないというのをちゃんとまずしましょうと。過労死等の問題についての啓発週間を設けるとか、国民が過労死を防止することについて関心と理解を深めていくという上では、非常に大きな意味がありますよね」

議員連盟の結成後も、西垣さんは精力的に東京へ足を運んできました。
家族の会のメンバーとともに厚生労働省や国会議員のもとを回っては、法律の制定を訴え続けています。

そして先月19日。
臨時国会での法案成立へ、集めた署名を議員連盟に託しました。
署名は2年間でおよそ52万人分に達しました。

しかし…、特定秘密保護法案をめぐって国会は混乱。
過労死を防ぐ法案は与党内での手続きが終わらず、結局、野党案として提出されて継続審議となり、今国会での成立はかないませんでした。

【西垣さん】
「今、過重労働の中で働いている日本中の人たち、特に若い人たちを救うことになると思います。そういう法律ができてくれば、親としてつらくはありますが、息子の死も意味のあるものになるかもしれない。あの子が応援していると思います」

今後、与党は修正案を提示する方針で、議員連盟として来年1月に始まる通常国会での成立を目指します。
今、この瞬間にも過労で苦しんでいる人を救うために、遺族たちは声を上げ続けます。

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