<過重労働から身を守る>(上) 違法な時間外、常態化

中日新聞 2014年2月21日

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 十分な保障をせず、若者に過酷な労働を強いる「ブラック企業」が、社会問題になっている。厚生労働省の調査でも、違法な時間外労働が常態化している実態が明らかになっている。当事者に話を聞くと、健康を犠牲にして、目の前の仕事に追い立てられる様子が浮かび上がった。

 厚労省が昨年、法令違反が疑われる全国の五千百十一事業所を調査した結果、82%にあたる四千百八十九カ所で法令違反が見つかった。最も多いのが「違法な時間外労働」(43・8%)=グラフ(上)。一カ月の残業・休日出勤時間が百時間を超える事業所も七百三十カ所で、14%もあった=同(下)。

 こうした実態を裏付ける当事者の証言も、本紙に寄せられた。大阪市の会社員男性(26)は新卒で入った会社を四カ月で辞めた。合同企業説明会で、若手の経営者が、仕事内容や業績について雄弁に語る姿にひかれた。ベンチャー企業の勢いも感じた。

 会社は節電できるという機械を小規模の町工場などに販売していた。先輩が営業に行く約束を取るため、男性は一日四百件の電話をかけ続けた。決められたノルマをこなせば職位は順調に上がるが、成績を残せなければ降格となる。

 上司は「座らずに立って電話をかけろ」と要求。昼食も取らず、未明まで電話をかけることもあり、残業は月二百時間を超えた。営業成績はトップだったが、体がもたなくなった。「こんな働き方は健康を害するだけ。どんなに仕事ができても経験にはならない」

 男性はその後、滋賀県内の商社で三年近く働いたが、朝から晩まで働き続ける生活が嫌になり、地元のメーカーに転職。働きやすさを重視した結果、友人が勤めていて、社内の様子が分かる会社を選んだ。「会社は実際に入ってみないと分からない」と振り返る。

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 この男性のように転職先を見つけるのは容易ではない。働く意欲を失うなど、過重労働がその後の人生に影響することもある。

 名古屋市の無職男性(44)は、新卒時に入社したメーカーで、音響機材を修理するサービスエンジニアとして働いた。仕事の愚痴をこぼしたのを機に社内でいじめに遭い、手間も時間もかかる仕事ばかりが回ってくるように。仕事が終わらずサービス残業をしても、修理件数が少ないことなどを理由に、会社から退職を勧められたという。

 男性は「何とか頑張ります」と、一年間しがみついた。会社側が父親に退職を説得するよう申し入れ、父親にまで「おまえが悪い」と否定された。「ノルマがこなせないのは自分が悪い」と思い込み、周りが見えなくなっていった。

 退職後は製造業を中心に五〜六社で働いたが、いずれも長続きせず、短期雇用の仕事が中心になるなど、働く意欲もうせていった。「家族にも話せず、会社から辞めろと言われる弱い部分は、友人にも見せられなかった。誰かに相談すればよかった」と声を絞り出した。

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 名古屋市の派遣社員の男性(41)は昨年、勤務先の物流会社で三十代の正社員が突然死する事態に遭遇。職場は派遣やパート中心。正社員は常時一人か二人しかおらず、亡くなった正社員が仕事を抱え込み、残業続きで週末も休まなかった。正社員の体の不調には気付いていたが、自身も目の前の作業に追われていた。

 社内に労働組合はなかった。社員が同僚や上司に相談したり、雑談したりすることもなく、声をかけるのもはばかられる雰囲気だったという。「病んでしまう前に、悩みを吐き出す気力さえ残っていれば、結果は違っていたと思う」 (福沢英里)

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