社労士、不正後押し…残業代逃れ、助成虚偽など

読売新聞 関西 2014年3月5日

顧客企業の獲得過熱 昨年度の処分11件

大阪労働局が社労士の役割や不正行為の事例などを記して作成した冊子(写真省略)

 社会保険労務士が企業による労働法上などの不正に手を貸して、処分を受けるケースが目立ち、2012年度に厚生労働省が出した懲戒処分件数が過去最多の11件に上った。この状況を重くみて、同省では昨年、全国社会保険労務士会連合会(東京)に不正防止を緊急要請。大阪労働局でも、社労士の役割やモラルを記した冊子を作って注意喚起するなど、不正行為に歯止めをかけるための取り組みに力を入れている。

◆知識を悪用

 「重く受け止め、反省している」。2月下旬、大阪労働局で、懲戒処分の決定前に弁明を聞く「聴聞」が開かれ、社労士の男性は神妙な様子で話した。

 この社労士は昨春、美容会社の就業規則の変更を労働基準監督署に届け出る際、必要な労働者代表の意見書を勝手に作成した疑いがあり、「1年以内の業務停止」か「戒告」の処分が予定されていることが告げられた。

 同じ日にはもう1件、雇用対策の助成金の不正受給に手を貸したとして、別の社労士の聴聞もあり、2人への処分は今春にも出されるとみられる。

 社会保険労務士法では、専門家としての知識や立場の悪用を防ぐため「企業への不正行為の指示の禁止」「信用失墜行為の禁止」を規定。これに違反した行為の情報があれば労働局が調査し、厚労省が処分する。

 同省によると、12年度の処分は過去最多だった09年度の8件を上回る11件に上り、うち7件は助成金の不正受給への関与だった。ほか4件の中には、事業所の社会保険料を減らすため、報酬月額を偽った書類を作成した社労士のケースなどがあった。

 大阪労働局管内ではこの10年間は懲戒処分がなかったが、12年度は2件に。

 同局は今年2月、内容を偽った賃金台帳やタイムカードを労基署に提出したとして、建築工事会社の顧問だった社労士(57)を労働基準法違反容疑で大阪地検に書類送検。会社は従業員の残業代約60万円の支払いを免れていたとみられ、社労士は「会社の役に立とうと思った」と供述したという。

◆注意呼びかけ

 一方、厚労省では昨年4月、全国社労士会連合会に「職業倫理上配慮すべき事項の会員への周知」などの対策を求める緊急要請を行った。

 大阪労働局も昨年11月、社労士の役割やルールをまとめた冊子(24ページ)1万5500部を作り、大阪府社会保険労務士会などに配布。「もし依頼者が『経営が苦しいから残業代を支払わなくてよい方法はないか?』と相談してきたら、きっぱりと『NO!』を」などと注意を記した。

 全国社労士会連合会でも不正防止の検討会を設け、昨年6月、報告書をまとめている。不正の背景として「顧客獲得のための競争が激化している」とした上で、「極端に労使の一方に偏るなど、社労士としてあるべき業務対応から逸脱した広告が行われている」などと指摘。新規入会時の研修の充実や、相談体制の整備などの対策が必要とした。

 これら対応の成果か、今年度、懲戒処分が出されたのは昨年末時点で1件。大阪労働局では「企業の経営状況が厳しくなると、社労士が『依頼者の企業のために』と不正な知恵をつけ、自分たちの業務も維持しようとするケースが出てくる。企業と労働者を含めた社会全体の利益のために業務するよう、十分周知したい」としている。

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