産経新聞 2014年5月17日
■「本気で死にたい・消えたい」…2割
3年連続で改善した大学生の就職率。だが、企業の厳選採用方針を受け、内定が“狭き門”である実態は変わらず、現場の就活生は心身ともに疲弊。内定が得られないことを苦に自殺を図る学生も。「エントリー100社」などと危機感をあおり、就活生に企業数を競わせるような社会の風潮に、疑問を呈する声も広がっている。
「就活サイトに登録すると、2、3日でメールが100通もくる。おすすめ企業だからエントリーしろって。もう疲れちゃった」
法政大の上西充子教授(キャリア教育)には、就活中の学生からそんな相談が寄せられる。「志望動機もあいまいなまま、エントリーを増やしても落とされて自信をなくすだけ。数だけ競わせるようなやり方はおかしい」と疑問を投げかける。
大手就活サイト「リクナビ」は昨年12月、過去のデータをもとに、就活生にエントリーすべき企業数の目安を示す機能をホームページに追加した。「内定をもらった先輩は50社エントリー」「あなたは現在15社」などの情報がグラフ形式で表示される。
「何社ぐらいエントリーすればいいのか、目安が知りたいという声が多かったので…」と運営するリクルートキャリアの担当者。だが、就活生や識者から「プレッシャーがかかる」「企業広告を集めるための戦略じゃないのか」などと批判が集まり、来年からは表現などを改める方針という。
厳しい就活は、学生にとってデリケートな問題という。内閣府の統計によると、24年に就職失敗を原因に自殺した学生・生徒は計54人にのぼる。
自殺対策を進めるNPO法人「ライフリンク」が昨年7月、就活中の学生122人にアンケートしたところ、「本気で死にたい・消えたい」と考えた学生は約2割に達した。「面接で落ちるたびに学生は自分の存在価値を否定されたように感じ、追い詰められる。落ちるとさらに自信をなくし、負の連鎖に陥る」(NPO代表)のだという。
ネットで容易にエントリーできるようになり、いたずらに応募者が増えることは企業にとっても負担だ。
IT企業「ドワンゴ」は昨年12月、入社試験に際し、首都圏に住む学生から2525円の受験料を取る制度を導入した。「本気でない学生の応募増は、採用側にも、学生側にもメリットがない」と判断したためという。
上西教授は「就活サイトをうのみにせず、先輩がどんな企業に入社しているか相場観を調べるなどして、身の丈にあった企業選択をすることが、無駄を減らすことにつながるのではないか」と話している。