読売新聞 2014年07月09日
若い社員を酷使し、使い捨てる企業を指す「ブラック企業」になぞらえ、「ブラックバイト」と呼ばれる。学生のバイトが増える夏休みを前に、専門家が注意を呼びかけている。
東京都内の大学3年生の女性(21)は、1年生の時から飲食店でアルバイトをしている。当初の条件は「週2回、3時間」だった。だが、半年ほどたった頃から週3回勤務を要求されることが増えた。「勉強の時間がなくなる」と断ると、店長に「ほかにいないんだ!」とどなられた。
急に電話で呼び出されたことや、休憩なしで8時間以上働いたこともある。サークルの行事と重なって勤務の変更を頼んでも「無理」と一蹴されたり、風邪をひいて「休ませてください」と伝えても「よく寝た後で出勤できないか」と催促されたりした。
「商品を買い取らされた」「辞めさせてくれない」
中京大教授の大内裕和さん(教育学)が昨冬、中京大の学生約260人にアンケートを実施したところ、「販売ノルマを達成できないと、商品を買い取らされた」「働く曜日と時間を変えてもらえず、試験を欠席した」など、約6割が労働法に抵触したり、学業に支障が出たりする環境で働いた経験があった。大内さんは、こうした過酷なバイトを「ブラックバイト」と名付けた。
5月に愛知県の弁護士が行った「『ブラックバイト』無料電話法律相談」にも、「バイト先の飲食店で1日12時間も拘束され、『辞めたい』と言っても辞めさせてくれない」などの相談が寄せられた。
全国大学生活協同組合連合会が昨秋、学生約9000人に行ったアンケートでも、入学後のトラブルとして、最多の「宗教団体からのしつこい勧誘」(4・6%)に次いで、「アルバイト先での金銭や労働環境」(4・3%)が入った。
働かないと生活ができない学生
ブラックバイトが広がる背景には、学生と企業双方の事情がある。大内さんは「親の収入が減り、働かないと生活ができない学生が増えている。また、『バイトリーダー』『バイトマネジャー』などと名ばかりの役職を与えられたり、『自分が辞めると店が回らなくなる』と思い込まされたりして、辞めづらくなっている」と話す。
三菱総合研究所(東京)主任研究員の氷川珠恵さんは「『社員は店長1人で、店員30人は全部バイト』という飲食店も多く、重要な戦力であるバイトを辞めさせないよう、無理に引き留める企業も目立つ」と話す。
学生はどうすればいいか。労働問題に詳しい弁護士の佐々木亮さんは「学業が最優先なので、働き始めて支障が出るようなら、辞めるのも選択肢の一つだ」と助言する。労働条件などに不安を感じたら、各労働局や労働基準監督署の「総合労働相談コーナー」などへの相談を呼びかける。
これからバイトを探そうという人にも、佐々木さんは「面接の時に働けない曜日や時間を伝え、自分の都合と合わなければ、慌てないで他を探すこと。また、できるだけ、労働時間や業務内容、賃金などを記した契約書を作るよう、バイト先に要求したほうがいい」と話している。
(吉田尚大)