時給664円「夢も希望もない」 全国最低の9県

朝日新聞 2014年7月24日

写真・図版:大都市と地方の最低賃金(時給)の格差は拡大している(省略)

 非正社員を含め、働き手全体の生活底上げにつながる最低賃金をめぐる議論が、大詰めだ。政府は全国平均15円の引き上げだった昨年以上の増額をめざす。だが、消費増税や物価高の直撃で、全国最低の664円の9県では「こんな水準では夢も希望もない」との声がもれる。

 梅雨明けで真夏の太陽が照りつける宮崎市内。ハローワーク宮崎の玄関で、白い日傘を差した女性(47)が顔を曇らせながら紙をめくっていた。

 「レジ係 時給664円」「清掃スタッフ 時給665円」。宮崎県内の最低賃金は664円。玄関脇の箱から取り出した一覧表には、最低賃金か、それをわずかに上回る金額の求人が目立つ。「短大生のころのパートより安い。これだと、フルタイムでも月に10万円少しにしかならない」

 2年前までコールセンターの契約社員だった。手取りで月給は17万円台。体を壊して退職し、今月から、職探しを始めた。「人手不足で賃金が上がるとか、景気がよいとか、東京だけの話なんじゃないですか」

 同じくハローワークを訪れた宮崎市のアルバイト男性(52)はため息をつく。

 「こんな金額じゃ、夢も希望もないよね」。7月に始めた草刈りの仕事は時給750円。最低賃金を90円近く上回るが、熱中症を心配しつつ、8時間働く。「50を過ぎ、稼げる仕事が見つからない」

非正社員を含め、働き手全体の生活底上げにつながる最低賃金をめぐる議論が、大詰めだ。政府は全国平均15円の引き上げだった昨年以上の増額をめざす。だが、消費増税や物価高の直撃で、全国最低の664円の9県では「こんな水準では夢も希望もない」との声がもれる。

 梅雨明けで真夏の太陽が照りつける宮崎市内。ハローワーク宮崎の玄関で、白い日傘を差した女性(47)が顔を曇らせながら紙をめくっていた。

 「レジ係 時給664円」「清掃スタッフ 時給665円」。宮崎県内の最低賃金は664円。玄関脇の箱から取り出した一覧表には、最低賃金か、それをわずかに上回る金額の求人が目立つ。「短大生のころのパートより安い。これだと、フルタイムでも月に10万円少しにしかならない」

 2年前までコールセンターの契約社員だった。手取りで月給は17万円台。体を壊して退職し、今月から、職探しを始めた。「人手不足で賃金が上がるとか、景気がよいとか、東京だけの話なんじゃないですか」

 同じくハローワークを訪れた宮崎市のアルバイト男性(52)はため息をつく。

 「こんな金額じゃ、夢も希望もないよね」。7月に始めた草刈りの仕事は時給750円。最低賃金を90円近く上回るが、熱中症を心配しつつ、8時間働く。「50を過ぎ、稼げる仕事が見つからない」

■月8.5万円

 宮崎と同じ最低賃金664円の鳥取県。米子市のハローワークで転職先を探す女性(41)はスーパーの売り場で2年あまり働く。

 時給は765円だが、勤務時間は1日5時間で、手取りは月8万5千円ほど。契約も半年更新だ。高齢の両親と暮らすが、「せめて15万円は欲しい。これでは、生活保護を受けた方がまし」。

 安倍政権主導の「官製春闘」で大手企業の正社員は賃上げが進んだが、労働組合に加盟していない非正社員には、最低賃金が生活の底上げにつながる。

 政権は2年続けて成長戦略に最低賃金を上げる方針を明記。田村憲久・厚生労働相は15日の会見で「昨年並みか、それより良い成果を」と語り、全国平均15円増だった昨年以上の増額をめざす方針を示した。

 人手不足の目安となる有効求人倍率は5月に1・09倍と約22年ぶりの水準に達し、大幅引き上げの環境が整ったとの判断からだ。

 一方、経営者側は引き上げに慎重だ。宮崎県経営者協会の工藤久昭専務理事は「地方にアベノミクスの実感はまだない。去年のような急激な引き上げは厳しい」と話す。物価高で仕入れ値や燃料代が上がり、中小企業の負担感が増しているためだ。

■東京より205円安

 隣の大分県も、最低賃金は664円。電子機器組み立ての下請け会社では前年より約5%受注量が増え、3年ぶりにパートを5人雇い入れた。だが、16人のパートの多くは時給670円で働く。役員(46)は「仕事を逃さないため人を雇い入れたが、最低賃金が大きく上がれば、人集めにも支障が出る」と話す。

 最低賃金は、これより低いお金で働かせると違法になる金額で、最低の「664円」の県は、ほかに島根、高知、佐賀、長崎、熊本、沖縄の6県。最も高い869円の東京とは205円、全国平均の764円とも100円の開きがある。「そもそも水準が低すぎる」との指摘もある。

 厚労省では23日も増額の目安を議論する審議会が開かれ、労使の代表が意見を戦わせた。7月末にまとまる結論をもとに、最終的には各県の労働局長が金額を決める。10月には、新しい最低賃金額が適用される。(山本知弘、豊岡亮)

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