社員がどんどん大量に辞める ブラック企業を見抜く方法はあるか

SankeiBiz 2014.9.7 (PRESIDENT Online)

 学生、またその親にとって、就職を志望する会社がブラック企業かどうかは大きな関心事である。

 一般的に長時間労働、低賃金といった問題を持つ会社がブラック企業と呼ばれるが、どの程度、仕事がきついのかなどは、働く人の主観によっても異なる。そこで客観的に見る方法として挙げられるのが、有価証券報告書によるチェックである。

 有価証券報告書とは、上場企業などが事業の状況や財政状態、経営成績などの財務諸表を記載、公表するもの。虚偽記載があれば罰則が与えられ、企業の信頼も損なう。金融庁のウェブサイト「EDINET」に各企業の有価証券報告書が掲載されており、誰でも閲覧できる。トップページ→書類検索→企業名入力で検索できる。

 まず、社員がどんどん大量に辞めているというのは、ブラック企業の証左といえる。そこで確認したいのが、「平均勤続年数」。有価証券報告書の「従業員の状況」に記載されている。

 たとえばトヨタ自動車の平均勤続年数は15.4年。出向(転籍)した人は退職扱いになるほか、中途採用が多ければ年数が短くなる。業界の特性もあるので、同業他社と比較しよう。

 仕事がきついかどうかを客観的に見るためには、本来は労働生産性で比べるといいのだが、計算が複雑なので、「一人当たり売上高」を確認する。

 有価証券報告書の冒頭に記載されている「主要な経営指標等の推移」の中に「売上高」と「従業員数」という項目があるので、「売上高÷従業員数」で計算。従業員数は前期との平均の数字で計算する。

 一人当たり売上高が大きいほど、小さな労力で多くの売り上げを得ていることになり、この数字が小さい会社ほど、より懸命に働くことが求められる。

 ただし、一概にどの程度ならいいとはいえないし、業種によってもその数字は異なる。

 たとえば居酒屋チェーンを展開するコロワイドの一人当たり売上高は約5300万円で、しまむら(約2億1600万円)の4分の1に満たないが、同業のワタミ(約2600万円)と比べると約2倍の水準(いずれも連結ベース)。単純に数字を見るのではなく、同業他社と比較することが重要だ。

 待遇については、「従業員一人当たりの人件費」を見てみよう。

 非製造業の場合、(連結)損益計算書やその注記事項から人件費の情報を読み取ることができる。人件費には、給与、賞与、退職給付費用、福利厚生費、役員報酬などが含まれる。

 会社によっては(連結)損益計算書の注記事項に人件費の主要な費目が記載されているので、これらを合算すればいい。そうして求めた人件費を平均従業員数で割ったのが、従業員一人当たりの人件費である。

 有価証券報告書に平均年間給与が記載されているが、計算方法が統一されているとは限らないため、一人当たり人件費とあわせて比較したい。

リストラを行う際には割増退職金が支払われることが多く、有価証券報告書に特別損失として記載される。「割増退職金」「特別退職金」「事業構造改善費用」「構造改革費用」といった項目がないか、過去5年分くらいを確認したい。

 以上、複数の項目を挙げたが、「この指標が悪ければブラック企業」と言い切ることはできない。これら複数の指標や業界の特性などを踏まえ、総合的に判断したい。(公認会計士 大畑伊知郎 構成=高橋晴美)

 ※掲載した有価証券報告書の数字は、2014年7月14日現在、各社ホームページに記載されている最新版。(PRESIDENT Online)

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