NEWSポストセブン 2014.12.02
労働時間の規制を取り払って企業の生産性を上げようというホワイトカラー・エグゼンプション(WE)。その強引な制度化は、かえって労働者のサービス残業を増やして「ブラック企業」をのさばらせるだけだ――。
労働者の権利が失われかねない事態に当サイトも度々警告を発してきたが、働く者を“使い潰す”ブラック企業の手口は、国の有効な対策もないままに、より巧妙化している。
11月28日に連合(日本労働組合連合会)が発表した『ブラック企業に関する調査』によれば、<長時間労働が当たり前><仕事に見合わない低賃金><有給休暇が取得できない>との理由から、勤務先がブラック企業だと感じている人が4人に1人いることが判明した。
しかも、驚くべきことに、ブラック企業だと感じていながら、<誰にも相談したことがない>と答えた人が46.8%と半数近くいることが分かった。その理由はなぜか。
『辞めたくても、辞められない』(廣済堂新書)の著書もある人事ジャーナリストの溝上憲文氏が語る。
「本当に劣悪で耐え難い労働環境ならば、労働組合の相談窓口や、国の労働基準監督署、弁護士のところに駈け込めば未払いの残業代などを取り戻すことも可能です。でも、会社と争うことは『退職』も覚悟しなければならないと思い込み、たとえ理不尽でも我慢している人が多いのです。
中には常識離れの仕事量を押し付けられているにもかかわらず、『就業時間内に終わらず残業になったのは自分の能力が足りないから』と過度な自己責任意識を抱き、心身ともにボロボロになるまで働き続ける人が依然多いのが実態なのです」(溝上氏)
最近は企業側もブラック認定されることにビクビクしていることに加え、人手不足から人材を簡単に切り捨てられない事情もあり、“アメとムチ”を巧みに使い分ける傾向が強くなっているという。
「もっとも多いのは、労働者に『辞めるのは悪だ』と思い込ませる“洗脳”です。退職届を出しても上司から『もう少し一緒に頑張ろう』『いま辞めたらせっかくのチャンスを逃すことになる』などと説得されるケースです。
集団的心理の根強い日本の組織の中で、繰り返し説得されるうちに辞める行為に罪悪感を抱きはじめ、最終的には会社の言いなりになってしまうのです」(前出・溝上氏)
脅して転職活動を妨害したり、執拗なパワハラや暴力で労働者を縛り付けたりすれば立派な犯罪で表面化もしやすいが、そうならないようにブラック企業側も策を講じているのである。
洗脳がもっと進めば、もはや新興宗教に近い“マインドコントロール”も施される。過去の事例の中には、研修と称した泊りがけのセミナーを開き、社員をローソクだけの暗い部屋に閉じ込め、社長の“ガンバリズム”を植え付けたケースも報告されている。
「特にオーナー経営者のカリスマ性が目立っているような会社は、これまでも労働法律知識に関係なく生きてきたので、悪い意味で人心掌握術に長けています。
『社長は3日徹夜してこの仕事をやり抜いた』とか、『死にもの狂いで偉業を達成した』など、熱心な“信者”の幹部社員がオーナーのご託宣を並べて社員の気持ちをコントロールする。素直で従順な若者なら、『私も立派な仕事人にならなきゃ』と思い込んでしまうのです」(溝上氏)
ブラック企業被害対策弁護団の代表を務める佐々木亮弁護士(旬報法律事務所)は、ブラック企業の対処法を常々こう述べている。
<非正規雇用が拡大している中、ブラック企業は転職不安につけこんで過酷な労働条件を押し付けてきます。今の雇用情勢では、ブラック企業なのに辞められない事情も汲まなければなりません。
「辞めないほうが悪い」という言い方は、ブラック企業の存在を肯定したうえに、その責任を働く側に押し付ける冷酷な物言いなのです>
柔軟な働き方が求められている今だからこそ、冷静に考えてみるべきだ。