2014年12月11日 共同通信の配信です
子供の貧困深刻に 奨学金の負担重く
「これ、どうやって解くの?」
「公式を当てはめてみようか」
衆院選公示後の7日、高校受験を控えた中学3年生十数人が、真剣な表情で机に向か う。傍らに寄り添うのはボランティアの大学生や社会人。東京都足立区の公共施設で毎週日曜日に開かれている無料の学習支援だ。
集うのは親が生活保護を受けるなど、経済的に余裕がない家庭の子供たち。塾に通え ないため、NPO法人「キッズドア」(東京)が2011年から続けている。
市販の問題集を使って自習し、学力に合わせた指導や進路相談を受けられる。男子生 徒の一人は「高校で陸上をやる。将来はスポーツの仕事をしたい」と声を弾ませた。
“講師”で私立大3年の内山田のぞみさん(21)も親が塾代を払えず、自力で勉強した経験がある。「学校の授業が分からず、ドロップアウトする子を、これ以上増やしたくない」
厚生労働省によると、平均的な所得の半分を下回る世帯で暮らす18歳未満の割合は、12年に16・3%で過去最悪に。政府は8月、子供の貧困の対策大綱をまとめた。
親の経済格差は、子供の進学や就職に悪影響を与えており、学習支援だけでは不十分だ。大学などへの進学を手助けするため、各政党は衆院選の公約に「奨学金の充実」(自民)、「(返済義務のない)給付型奨学金の創設・導入」(民主、公明、共産、生活 、社民)を掲げるが、財源のめどは立っていない。
北海道出身で中央大3年の高橋遼平さん(22)は学費や生活費を賄うため、あしな が育英会などから無利子融資を受けている。卒業後に約570万円を返済しなければな らない。交際相手の女性(22)も奨学金を利用し、結婚したら2人で1千万円を背負う。「式も挙げられないし、子供もつくれない」と将来への不安を隠せない。
子供がより良い環境で育つためには、親への支援も必要となる。
10代の子供3人を育てるシングルマザーの女性(49)=川崎市=は生活保護を受けながら、介護職の資格取得を目指す。次男は高校でサッカーに打ち込むが、遠征費をひねり出すのは大変だ。「今月はお金がないから」と子供に言い聞かせる。
アパートを借りるのにも苦労し、母子家庭への偏見や差別を強く感じる。「消費税率を上げて社会保障を充実させるというが、本当に困っている人が恩恵を受けられるようにしてほしい」と注文を付けた。
母子家庭の支援強化を
湯沢直美・立教大教授
湯沢直美・立教大教授(社会福祉学)の話 子供の貧困を防ぐには、親の就労を支え家計を安定させる仕組みも必要だ。日本では特に母子家庭が深刻な状況に陥っている。シングルマザーは8割以上が就業しているが、非正規労働の割合が高く安定した収入を望みにくい。仕事を掛け持ちし、子供と話す余裕もない。働いても貧困から容易に抜け出せない現状を変えるためにも、女性に不利な雇用環境の改善や、子育てに伴う公的手当の充実を図るべきだ。