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朝日デジタル 2015年4月22日
平井恵美、末崎毅 編集委員・沢路毅彦
幅広い業種に広がっているとされる「ブラックバイト」。正社員と同じように労働基準法などで保護されているが、学生らの知識不足に企業側がつけ込んでいる面もある。貧しくてバイト収入に頼らざるを得ず、厳しい状況を黙って受け入れる学生すらいる。
それブラックバイトじゃない? 長時間労働・自爆営業…
飲食チェーンで調理担当だった神奈川県の女子大学生(19)は、休憩がないまま1日10時間以上働かされたこともあったという。スケジュール帳は「正午から午後10時まで」といった勤務予定で埋まる。社員の店長は不在がちで、店はバイト任せ。「人手不足で無理やり勤務が入り、年末年始も働かされた」
疲れて授業に集中できない時もある。バイト仲間に迷惑をかけたくなくて我慢してきたが、今年2月に「労働環境が改善しない限り出勤しない」と店長に伝え、別のバイトに移った。飲食チェーン側は「バイトに長時間労働などの問題が起きないよう、社員には指導している」という。
ブラックバイトを最初に問題視したとされる中京大学の大内裕和教授(教育社会学)は、こうした例は珍しくないと指摘。バイト優先でゼミ合宿に参加できなかったり、授業や試験を休んだりする学生が多いのに気づき、2013年に調べ始めた。長時間労働、ノルマを課す「自爆営業」が横行していたという。
労働組合やNPO法人には、学生に対策を伝授する動きもある。
「(契約や面接時に)コピーやメモ、録音など記録をしっかり取ることが、身を守ることになる」
首都圏青年ユニオンなどは3月末、明治大学での説明会で呼びかけた。給料が働いた時間より少ない事例などを紹介。ブラック企業被害対策弁護団代表の佐々木亮弁護士が、労基法などに違反する可能性もあることを解説していた。
高校生に労働のルールを教えるNPOもある。「『自爆』したことがある人は?」。昨年12月、横浜市の神奈川県立田奈高校で、若者の労働相談に取り組む「POSSE(ポッセ)」(東京)が2年生に出張授業をした。講師役の大学生がたずねると、男子は「友達がコンビニでおでんを無理やり買わされた」。女子は「私がやった証拠がないのに、レジ打ちを間違えたからと給料から1万円引かれた」と答えた。
講師は、飲食チェーンのバイトで制服代5500円を給与から引かれたが、会社負担を求め、認められた経験を話した。「強要されても簡単に応じない。録音やメモがあれば後からでも請求できる」
同高では親の経済的な事情などから、生徒の7〜8割がバイトをしている。授業を依頼した吉田美穂教諭は「生徒は弱い立場につけ込まれないよう、働く際の基本的なルールを学んで欲しい」と話す。(平井恵美、末崎毅)
■家計苦しくバイト頼み
ブラックバイトが広がる背景には、学生の経済状況の厳しさがある。
宮城県の私立大3年の女性は、衣料品チェーン店で働いていた際、試験前でも休みがとりにくく、熱が出ても上司に「インフルエンザじゃないなら出て」と言われたという。シングルマザーで保育士の母親の月収は13万円ほどで、奨学金とバイトが頼りだ。いまは別のバイトに変えた女性は「あと2年は歯を食いしばるしかない」。
大学の授業料が高くなる一方、親の収入は減り、学生が自由に使えるお金は減っている。東京地区私立大学教職員組合連合が昨年、首都圏の私立大学の新入生を調べたところ、親元を離れた下宿生の生活費は1日あたり897円。2千円超だった1990年代の半分以下だ。
このため、奨学金の利用は90年代末から増えている。2012年の日本学生支援機構(旧日本育英会)の調べでは、大学生(昼間)の52・5%に達する。
ところが、その奨学金も十分ではない。最も代表的な支援機構の奨学金は、返済なしの「給付型」ではなく、「貸与型」。しかも有利子が中心だ。毎月10万円を4年間借りたら、卒業時の返還総額が600万円を超えることもある。
大内教授は「いまの奨学金は学生向けの金融事業であり、『貧困ビジネス』。制度に不備があり、学生はバイトせざるを得ない。もっと給付型を増やすべきだ」という。(編集委員・沢路毅彦)