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朝日デジタル 2015年9月24日
写真・図版 省略
ドラマでも取り上げられ、華やかに映る「キャバクラ」。だが、職場として眺めると別の顔も見えてくる。給料の未払いや違法な控除など、労働のルール違反が横行している。相談をたどると、「生活苦」も見え隠れする。この夏、ある団体交渉を追った。
6月下旬の夕方。1人の女性(29)が、千葉県内のキャバクラに向かった。3月、結婚と妊娠を機に「辞める」と告げた元職場だ。その時店長は「それなら1〜2月の給料は払わない」として、約20万円を払わなかった。女性は、1人でも入れる労働組合「キャバクラユニオン」のメンバー5、6人と合流し、店のドアを開けた。出てきたのは当の店長だった。
◇
ユニオン(ユ) 未払い分、用意していますか
店長 不良退店扱いなので、罰金として引いた
ユ それは労働基準法に基づいた罰金ですか
店長 とにかく支払う気はない。このままだと営業妨害になるので
20分ほど押し問答が続き、店の責任者を名乗る別の男性が現れた。「本当にこの人が働いていたか調べるから」と言うと、女性は「あなたに会ったことがあります」と抗議。男性は、事実関係を調べるので4日後にまた来るよう告げた。
だが、指定した日時に行くと、責任者は「話すことなんてない。未払いなんてないから」と言い放ち、追い出そうとした。組合員が「調べるって言ったでしょ。団体交渉なので、使用者は応じる義務がある」と抗議すると、責任者は「もう出て行きなよ」と吐き捨て、110番通報した。警察官が駆けつけると「これ営業妨害だよ」と訴えた。
警察官は最初、話し合いの打ち切りを促した。だが、面会を約束していたこと、未払い賃金があるとわかると、やりとりを見守った。責任者は、「1週間後、店長をそちらの事務所に行かせる」と、交渉に応じる姿勢を見せた。
そして1週間後。店長は当日になって「結婚することになった。家族間のあいさつがあるから行けない」と告げた。ユニオンが「来られるまで待つ」と応じると、根負けしたのか、店長はその3時間後、「未払いは確かにあった。今日はこれで解決してほしい」と現金10万円を持って現れた。
この日、店長は残りの支払いにも応じた。さらに、源泉徴収票を出すよう求めると、「納税していない」。税金名目で給料の10%を引き続けてきた分も、返すことになった。深夜の割増賃金の未払いも含め、返還総額は35万円になった。
■わかりにくい給料相場、貧困との結びつくケースも
こうした相談例は、毎週のように寄せられる。店が話し合いに応じなければ、店の前で拡声機を使って訴えたり、ビラ配りをしたりして交渉を促す。
ユニオンの布施えり子執行委員(34)によると、店側は、暴力団との関係をちらつかせたり、日ごろから「ブス」などと暴言を浴びせ、自尊心を失わせたりして諦めさせるという。給料の相場もわかりにくく、相談に至らず泣き寝入りする女性がほとんどとみる。
キャバクラには、もう一つ、見過ごせない問題があるという。貧困と結びつくケースが多いことだ。時給が2千円以下の場合もあり、1日で1万円稼げればいい方だという。週2、3回の勤務では手取りが10万円に満たないことも多い。
これまでの相談では▽大学の学費が払えず働いたが、給料未払いで退学した▽ネットカフェで暮らしている▽1千円の組合費も払えない――、といった例がメールや電話で寄せられた。直接会うに至らなかった場合もあり、その後どうなったかは分からない。
実際、冒頭の女性も、日中は都心の会社で派遣社員として働いていた。月収は16万円ほど。生活費が足りず、時給2500円で週末にキャバクラで働いた。
布施さんは「相談者の8割以上が貧困だ。腎臓や肝臓を壊しても、労災認定も失業保険もない。履歴書にも空白期間が生まれがちで、転職しにくくなる実態もある」と話す。(疋田多揚)