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朝日デジタル 2015年9月29日
写真・図版
ワイン選びが楽しみのひとつ。肝機能が落ちた時は飲む量を控えた=大阪市北区(省略)
2012年5月、徳島県鳴門市の会社員、野内豊伸(のうちとよのぶ)さん(37)はテレビのニュースを見て、「あっ」と声を上げた。
大阪市内の印刷会社で、元従業員4人が胆管がんで死亡していたことが明らかになり、作業で使っていた洗浄剤が原因ではないか、と伝えていた。会社名は伏せられていたが、かつての勤務ログイン前の続き先だとすぐにわかった。
1997年から約6年間、刷り上がった印刷物の色を点検する仕事に就いていた。風通しの悪い地下の作業場で、図鑑やパンフレットを数部刷っては、洗浄剤をしみこませた布で機械に付いたインクをふき取った。
多い日には、この作業を5分ごとに繰り返すこともあった。ペットボトルのような容器に入った洗浄剤は、鼻をつく刺激臭があった。同僚と「体に悪いかも」と話していたが、マスクを着けるなどの対応はしていなかった。
02年、転職して鳴門市に移った。その後、かつての工場長と同僚ががんで亡くなった。葬儀では、相次ぐ死を不審に思う元同僚から「あの会社、何か隠してないだろうか」と言われた。
自身の体調に変化は感じていなかったが、数年前から肝機能のγ(ガンマ)GTP値が徐々に上がって正常値の6倍の300近くに達し、健康診断で異常を指摘されていた。「お酒の飲み過ぎだろう」と思って好きなワインの量を控えても、改善しなかった。ニュースを見て「自分も、がんかもしれない」と不安を抱いた。
鳴門市内の総合病院で診察を受けた。肝臓の周りをCTで撮影し、医師に「何かあるね」と言われた。だが、はっきりと診断はできず、経過観察になった。
印刷会社での胆管がん問題は、ネットの匿名掲示板で様々な情報が連日書き込まれた。「一体、何が起こっているのか」。報道から約1カ月後、印刷会社から実家に封書が届いた。「伝えたいことがあるので、連絡をください」と記されていた。
「胆管がん」という文字はどこにもなかった。「あれだけ報道されているのに、どういうことや」。事実をごまかそうとしているような気がした。(朴琴順)
◆5回連載します。