パナソニック工場に「地域限定社員」 人手の確保図る

 
冷蔵ショーケースなどを作るパナソニックの工場=群馬県大泉町(写真省略)
 
 パナソニックは、家電部門の国内工場で働く「地域限定社員」の採用を始める。2年半の有期雇用で雇い始め、その後、定年(60歳)まで働ける無期雇用に切り替える。これまでは、正社員では足りない工場労働力を派遣社員で補っていた。人手不足が進んでいるのを機に、労働力の囲い込みを図る。
 同様の動きは、他の電機メーカーや有期雇用の期間工を抱える自動車メーカーにも広がる可能性がある。
 限定社員は国内12工場で順次採用する。転勤は無い。限定社員の賃金は月給制とし、多くの手当などの福利厚生制度は、正社員と同じにする方向だ。定期昇給や賞与の有無など、詳細は調整中だ。
 昨秋、炊飯器などをつくる兵庫県内の2工場で先行的に採用し始めた。2019年3月末までに約600人の採用をめざす。いま働く派遣社員らも、本人が希望し、派遣元の会社が認めた場合、同じ工場の限定社員にする。優秀な限定社員は正社員に登用するしくみもつくる。

企業の現場では、3月の有効求人倍率が「生産工程の職業」で1・51倍になるなど、人手不足が深刻だ。原則として期間を区切って入れ替えなければならない派遣社員も、採用が難しくなっている。

 また、労働契約法18条の「5年ルール」が18年4月に本格的に始まり、有期雇用の労働者が通算5年を超えて同じ職場で働く場合、無期雇用への転換を求める権利が与えられる。このため、企業間で人材の確保が一段と難しくなりそうなことも、雇用形態を見直す一因となった。
 大手製造業は08年のリーマン・ショック後、閉鎖・縮小する工場で働く派遣社員の契約を打ち切る「雇い止め」など、非正社員を景気変動に合わせた「雇用の調整弁」としてきた。働き手にとっても、定年まで直接雇用されれば勤務先が確保でき、安心感は増しそうだ。(近藤郷平、伊沢友之)
■失業率下がり、人手不足進む

パナソニックが地域限定社員の採用に乗り出すのは、働きたい人が全て働ける「完全雇用」に近い水準まで失業率が下がり、人手の確保に迫られたためだ。対策を取らなければ、生産現場の力の低下につながるとの危機感がある。
 大手製造業が非正社員を活用してきたのは、安い賃金で人が雇える新興国企業との競争にさらされ、国内の人件費を抑えるためだった。その結果、同じ仕事をしながら、雇用形態の違いで賃金などの待遇が違い、格差を助長する要因にもなった。
 同社を含め、過去には実態は派遣なのに、請負契約を結んで企業側が安全管理責任などを免れる「偽装請負」や、派遣利用を急に打ち切る「派遣切り」などで社会問題となった。

だが、人手不足が進んで新規採用にかかる時間やコストが増え、製造現場で非正社員に頼りづらくなった。結果的に人材が集まらなければ、新商品開発や低コストでのものづくりなど、海外工場の手本となる国内工場の役割も果たせなくなる。
 労働契約法18条の「5年ルール」の本格スタートも2018年4月に迫る。契約期間が区切られた有期労働者が通算5年を超えて働く場合、希望すれば無期雇用に変えなければならず、企業間で人材の囲い込みが進みそうな状況だ。政府が働き方改革を進めていることもあり、雇用形態の見直しの機運は高まっていた。
 パナソニックで家電部門を統括する本間哲朗専務は「(新しい採用で)日本でものをつくる力を維持、継続したい」と話す。
 非製造業や食品・流通業では既に、無期雇用の地域限定社員の制度をつくった企業がある。
 日本生命保険は16年、事務や電話対応などの時給制フルタイムの有期労働者の一部を、月給制の無期雇用に変える制度をつくり、約1千人の採用実績がある。
 オタフクソース(広島市)も14年から、3年超勤務するパート社員の一部を無期・月給制の「準社員」とする仕組みをつくり、32人を登用した。同社は「パート社員を入れ替えながら募集、教育するのは、コストと労力の負担が非常に大きい」という。
 ドーナツチェーン「ミスタードーナツ」などを展開するダスキン(大阪府吹田市)は、アルバイトを除き06年から3年超勤務する有期労働者を一律、無期雇用に変えてきた。16年からは正社員のコースに「エリア専任職」を新設。転勤と別事業への異動をなくす一方で、賞与や退職金などで待遇改善を行い、17年3月末で79人が働いている。
 だが、今のところ、他の大手製造業では限定社員について、目立った動きがみられない。パナソニックが投じる一石が、他の製造業にも広がるきっかけになりそうだ。(伊沢友之)

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