過労死の看護師の母「悲しみ再び誰かに…」国循労使協定

 朝日DIGITAL 2017年9月7日

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2001年に過労死した国立循環器病研究センターの看護師だった村上優子さんの写真を見せながら唇をかむ母親の加代子さん=大阪府吹田市(写真省略)

国立循環器病研究センター(国循、大阪府吹田市)で月300時間までの時間外労働が許容される労使協定が結ばれていたことに、医療関係者から驚きの声が上がっている。患者に寄り添う医師や看護師の勤務時間は長くなりがち。負担軽減を訴える声が上がっている。

国循「残業300時間まで」の労使協定 過労死基準3倍

「娘の死の教訓が組織内できちんと共有されているのか疑問です」。国循の脳神経外科病棟に勤務していた2001年、くも膜下出血で倒れ、亡くなった看護師村上優子さん(当時25)の母加代子さん(67)はそう話す。

優子さんの死を過労死と認定した08年の大阪地裁・高裁の判決によると、優子さんは患者の世話に加え、勉強会や研修会の準備で日常的に時間外労働を続けていたところに、新人指導係にもなった。

優子さんの死後、両親は過労死認定と遺族補償を求めて提訴。倒れる前の時間外労働は過労死ラインを下回る月50〜60時間前後だったが、1日の勤務を終えて次の勤務が始まるまでの間隔が5時間程度しかない日が月平均5回もあった事情などが考慮され、過労死と認められた。

「月に300時間」までの時間外労働を可能にする36(サブロク)協定について、加代子さんは「私たちの悲しみが再び誰かに降りかかるのではと心配でならない。早急に協定内容の見直しを進めてほしい」と話した。

今回、情報公開請求した松丸正弁護士は「医師・看護師不足が深刻化し、医療現場の負担は増している。現場の人たちの使命感と努力に依存し続けるのは難しい」と指摘。9日に東京都で開かれる医師の働き方を考えるシンポジウムで、国循を含む医療機関の36協定の現状を報告する予定だ。

全国医師ユニオンなどが08〜09年、国に主要病院の36協定を公開請求した調査では、月80時間以上の時間外労働を可能としていたのは、1091病院のうち168病院。上限の最長は「月200時間、年間1470時間」だった。

12年の総務省就業構造基本調査によると、1週間の労働時間が60時間を超えるのは、雇用者(年間就業日数200日以上、正規職員)全体で14%。だが医師は41・8%と、職種別で最も高い割合になっている。

大阪市内の病院に勤める循環器の男性医師(57)は「時間外労働が月150時間を超すと、さすがに続けたら死ぬかな、という感覚がある」と取材に漏らした。曜日によって「手術」や「外来」と決まっているのが基本で、「外来日に昼食を口にできるのは年に数回。午前と午後の診察がぶっ続けになるのが普通だと思う」。

手術は予定時間内に終わらないことがある。1年半前まで定期的に当直についた。救急対応に追われて一睡もできずに朝を迎え、昼食もとれない1日をこなすこともあった。カテーテルの手術中、一瞬カクッと意識を失うこともあったという。「集中力は落ち、医療安全の面からもダメなのは明らか」とため息をつく。

男性医師は「医師を増やし、時間で交代できるように数人で患者さんを診るようにするべきだ」と話す。(荻原千明、阪本輝昭)

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