「高プロ」ってどんな制度? 緒方桂子・南山大法学部教授に聞く

 2018-03-12 朝日新聞

https://digital.asahi.com/articles/DA3S13398430.html

安倍政権が働き方改革関連法案に盛り込む予定の「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」=キーワード=は、年収が高い専門職を労働時間規制から外す新しい制度だ。政権は裁量労働制の対象拡大を法案から削除する一方で、高プロの創設にはなお意欲をみせる。野党が反対する高プロとはどんな制度なのか。裁量労働制との違いは何か。労働法が専門の緒方桂子・南山大法学部教授に聞いた。

■労働時間、規制の枠外に

――高プロはどのような制度でしょうか。

「高プロは年収が一定以上の人の労働時間規制を外す制度で、仕事に費やした時間と成果の関連性が薄いとして、厚生労働省が省令で定める仕事をしている人が対象になります」

――高プロが導入されると、日本の労働時間規制は大きく変わると指摘されています。

「今の労働時間規制では、上級の管理職は『管理監督者』として扱われ、規制が緩められています。経営者にほぼ近い状態で働いていると認められているためです。高プロは、経営者に近いとは限らない労働者を規制から外すという意味で、全く新しい制度です」

――安倍政権が今国会での対象拡大を断念した裁量労働制とは、どこが違うのでしょうか。

「裁量労働制を適用するには、実態は別にして、法律上は仕事の進め方について労働者に裁量があることが必要です。高プロにそのような条件はありません。高プロを適用できる仕事は省令で具体的に定めることになっています。現段階では金融商品の開発、ディーリング業務、アナリスト、コンサルタント、研究開発業務の5種類が考えられているようです。高プロには年収1075万円以上という要件がありますが、裁量労働制にはありません」

――そうした専門職で年収が高い人なら、自分の裁量で仕事ができるのでは。

「今の法案では、高プロが適用される人に上司がノルマを課したり、仕事の仕方を指示したりすることは禁止されていません。対象業務を省令で定めること以外にしばりはありません。導入当初は仕事の進め方に裁量がある職種を対象にするかもしれませんが、省令は国会での議論を経ずに変えられるので、対象がどんどん拡大していく可能性があります。(研究開発職やデザイナーなど専門的な職種に適用される)専門業務型裁量労働制の対象も省令で拡大してきました。『厚労省を信頼してくれ』というのは無理な相談です」

――野党は高プロを「スーパー裁量労働制」と批判しています。

「仕事の量を自分で決める権限がないという点で、裁量労働制と高プロは共通しています。仕事の量の決定権がないと、際限のないノルマを課せられ、それに応えるために過重労働が起きます。労働政策研究・研修機構の調査では、裁量労働制では労働時間が長くなる傾向にあるとの結果が出ています。業績目標を自分でコントロールできない限り、過剰な労働をしてしまい、長時間労働が発生するのは構造的な問題です。仕事の量をコントロールするには、労働時間を規制するしかないと思います」

――なぜ、労働時間の規制が必要なのですか。

「憲法の要請です。日本国憲法27条2項は『賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める』としています。これを受けて労働基準法が作られました」

「労働契約は『私の労働力をあなたに売る』契約ですが、『私』は家族や友人との生活、地域との関わりを通じて人生を豊かにする自由と権利を持つ人間でもあります。『私の時間』と『あなたのための時間』を区別するのが労働時間規制の役割であり、労働時間の管理は使用者の基本的義務です。裁量労働制でも高プロでも働き手が労働時間を管理することになりますが、仕事の量を決められない働き手は、二つの時間を区別するきっかけを失ってしまう。新しい制度で得をする人もいるかも知れません。でも、労基法は最低基準です。得をする人のことを条文にしてはいけません」

(聞き手 編集委員・沢路毅彦)

*おがた・けいこ 大阪市立大大学院法学研究科後期博士課程修了。雇用における平等について研究している。最近の論文に「労働時間の法政策」。共著に「労働法」「事例演習労働法」など。

◆キーワード

<高度プロフェッショナル制度> 高度な専門知識を持ち、一定の年収がある働き手を労働時間規制から外す制度。略して「高プロ」と呼ばれる。労働時間と賃金の関係が切れた制度で、対象者は残業や深夜・休日労働をしても割増賃金が払われなくなるため、野党は「残業代ゼロ法案」と批判している。第1次安倍政権が2007年に導入を目指したホワイトカラー・エグゼンプションも同様の制度。

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