<副業?その前に>(上)注意すべき点 Q&A 労災巡り不利益の恐れ (8/5)

<副業?その前に>(上)注意すべき点 Q&A 労災巡り不利益の恐れ

東京新聞 2019年8月5日
 
 
 政府は四月、原則禁じていた会社員らの「副業・兼業」を本格的に解禁した。十月スタートの消費税率アップも背景に、収入の増加を期待する向きも多いが、課題も少なくない。三回にわたって検証する。初回は、副業について押さえておくべき点をQ&Aで明らかにする。
 
 Q そもそも副業って、誰でも始められるの?
 
 A まずは勤めている会社の就業規則を確認することが必要です。多くの会社が、副業は「禁止」、あるいは「社の許可なく、他社の業務に従事しないこと」と定めています。中小企業庁による二〇一五年の調査によると、対象とした千百七十三社のうち、副業・兼業を「容認している」のはわずか14・7%。85・3%の社が「認めていない」と答えています。
 
 Q 認めない社がそんなに多いのはなぜ?
 
 A 会社が心配するのは本業に支障をきたすこと。その証拠に、同じ調査による複数回答では、63%が「本業がおろそかにならなければ認める」と答えています。もう一つ、企業秘密などの漏えい、利害がぶつかることを案じる声も目立ちました。身に付けた技術や人脈を生かそうとすると、副業先が同業他社になる可能性も高いからです。
 
 Q 本業も副業も一生懸命やればいいのでは?
 
 A それは別の問題をはらみます。先の調査では複数回答で、四割超の会社が、副業・兼業を認めるに当たって、長時間労働の不安を挙げています。
 
 労働基準法や労災保険などによって、会社は社員の健康に責任を負っています。法定労働時間は一日八時間、一週間で四十時間が原則。労働基準法では「複数職場の労働時間は通算する」と規定しています。副業をする場合、それぞれの会社の労働時間は合算するという意味です。
 
 例えば、本業で一日六時間、副業で三時間働いたとすると、労働時間は計九時間となり、一時間分が時間外労働、いわゆる残業扱いに。副業先が一時間分の割増賃金を払わないといけません。
 
 Q そこまでして雇う社があるだろうか。
 
 A 働き手の健康を守るには、副業を認める会社も、副業したい人を受け入れる会社も双方で、その人がそれぞれの職場で、どのぐらいの時間働いているのかを把握する必要があります。会社にとっては手間がかかる作業です。
 
 Q 仕事でけがをしたり過労死したりしたら?
 
 A 労災保険は、事故に遭った職場の月額賃金をもとに算定されます。例えば、本業で月三十万円、副業で月三万円もらっていた人が副業先でけがをすると、三万円を基準に補償額が決まります。万が一、けががもとで本業で働けなくなると、生活ができなくなる危険も出てきます。
 
 労災認定では、副業先の労働時間は合算しないのが原則。一方、川口労働基準監督署(埼玉県)は七月、昨年死亡した同県三郷市のトラック運転手の労災認定に当たり、過労死と認定しました。本業と副業の労働時間を合算した結果で、極めて異例です。
 
 副業先は男性が働く会社の関連会社。男性はトラックの運転を本社の社員として、荷物の積み降ろしを関連会社の社員としてやらされていました。認定は「本業も副業も事実上、一社の仕事」と判断したためです。政府が副業・兼業を進める中、労災認定に副業先の労働時間を合算しないルールが変わらない限り、悪用する企業が多く出ることも考えられます。
 
 Q 収入が増えてめでたし、ではないね。
 
 A 収入増加はうれしいですが、副業での年間収入が二十万円を超えると確定申告が必要になります。副業を始めるなら、基本的な知識をしっかり持つことが大事です。 (三浦耕喜)
 
〔図〕
 
  =次回は十二日

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