ILO駐日事務所(仮訳) 2019年の暴力とハラスメント条約(第190号)

2019年の暴力とハラスメント条約(第190号)
https://www.ilo.org/tokyo/standards/list-of-conventions/WCMS_723156/lang–ja/index.htm

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https://www.ilo.org/wcmsp5/groups/public/—asia/—ro-bangkok/—ilo-tokyo/documents/normativeinstrument/wcms_723153.pdf

正 式 名(仮訳):仕事の世界における暴力とハラスメントの撤廃に関する条約(正式な日本語公定訳は政府が国会に提出する際に作成されますが、今回は多数のご要望にお応えするものとして、ILO駐日事務所で仮訳を作成しました。したがって、名称を含み、訳文は今後変わる可能性がありますので、あくまで参考訳としてご利用下さい)
(第108回総会で2019年6月21日採択。未発効。最新の条約)

日本の批准状況:未批准 ◆批准国一覧(英語)

条約の主題別分類:未定  条約のテーマ:未定

[ 概 要 ]
仕事の世界における暴力と嫌がらせ(ハラスメント)を扱う初の国際労働基準。

 仕事の世界における暴力とハラスメントは「人権侵害または虐待になり得ること、機会の平等を脅かす許容できないものであり、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)と相容れないもの」であることを認めている。また、家庭内暴力が仕事の世界に影響を与え得ることも留意されている。条約は、「暴力とハラスメント」について、「単発的か反復的なものであるかを問わず、身体的、精神的、性的または経済的な害悪を与えることを目的とした、またはそのような結果を招くもしくはその可能性が高い」一連の許容できない態度及び行為またはその脅威と定義し、加盟国に対しては、その存在を「一切容認しない一般的な環境」を促進する責任があることに注意を喚起し、仕事の世界における暴力とハラスメントの防止・撤廃のための性差に配慮した包摂的かつ総合的な取り組みを、第三者が関与する場合があることも考慮に入れた上で採用することや、仕事の世界における暴力とハラスメントを定義し禁止する法令の制定などを通じて暴力とハラスメントのない仕事の世界に対するあらゆる人の権利を尊重、促進、実現することを批准国に求めている。

 包摂性に重点を置くこの条約は、契約上の地位にかかわらず、あらゆる労働者及び仕事の世界におけるその他の人々を保護することを目指しており、インターンや見習いを含む訓練中の人、雇用が終了した労働者、ボランティア、求職者、応募者なども含むものとしている。さらに、「使用者の権限、義務、責任を行使している人」も暴力やハラスメントの対象になり得ることを認めている。

 暴力やハラスメントの発生場所に関しても、職場内のみならず、賃金が支払われる場所や休憩・食事の場所、トイレやシャワー室、更衣室、仕事に関連した出張・研修・行事・社交活動中、電子メールなども含む仕事に関連した連絡・通信の過程、使用者の提供する居住設備、通勤中も含むものと規定されている。

 条約を補足する同名の勧告(第206号) が同時に採択されている。

 第108回総会ではまた、「仕事の世界における暴力とハラスメントの撤廃に関する決議 」と題する付帯決議も採択された。決議は、第190号条約の批准及び第206号勧告の実施を加盟国に呼びかけると同時に、ILO理事会に対し、第190号条約の幅広い批准と条約・勧告の効果的な実施に向けた包括的な戦略の策定をILO事務局長に求めるよう提案している。

(W) 以下は、ILO駐日事務所が作成した仮訳(pdf)ファイルをテキスト化したものです。


ILO駐日事務所仮訳
https://www.ilo.org/wcmsp5/groups/public/—asia/—ro-bangkok/—ilo-tokyo/documents/normativeinstrument/wcms_723153.pdf

仕事の世界における暴力とハラスメントの撤廃に関する条約(第190号)

 国際労働機関の総会は、
理事会によりジュネーブに招集されて、2019年6月10日にその第108回(創設100周年)会期として会合し、
フィラデルフィア宣言が、すべての人間は、人種、信条又は性にかかわりなく、自由及び尊厳並びに経済的保障及び機会均等の条件において、物質的福祉及び精神的発展を追求する権利をもつと確認していることを想起し、
国際労働機関の基本条約の関連性を再確認し、
世界人権宣言、市民的及び政治的権利に関する国際規約、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約、あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約、女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する国際条約、全ての移住労働者及びその家族の構成員の権利の保護に関する国際条約、障害者の権利に関する条約など他の関連する国際的文書を想起し、ジェンダーに基づく暴力とハラスメントを含む、暴力とハラスメントのない仕事の世界に対するあらゆる人の権利を認識し、
仕事の世界における暴力とハラスメントは人権侵害または虐待の一形態であり得ること、また機会均等に対する脅威であり、容認できず、かつディーセント・ワーク と相容れないものであることを認識し、
暴力とハラスメントを防止するための相互の尊重と人間の尊厳に基づいた仕事の文化の重要性を認識し、
暴力とハラスメントの行為及び慣行の防止を促進するため、加盟国には暴力とハラスメントを断固として容認しない環境を全面的に整備する重要な責任があること、並びに仕事の世界に関わる全ての当事者が、暴力とハラスメントを自制し、防止し、これに対処しなければならないことを想起し、
仕事の世界における暴力とハラスメントは、個人の精神的、身体的および性的な健康、尊厳、並びに家族及び社会環境に影響するものであることを認め、
暴力とハラスメントは、公共および民間のサービスの質にも影響し、人々、とりわけ女性が労働市場に参入し、残留し、またその中で昇進するのを妨げる可能性があることを認識し、
暴力とハラスメントは持続可能な企業の促進と相容れず、仕事の組織、職場の関係、労働者のエンゲージメント、企業の評判及び生産性に否定的な影響を与えることに留意し、
ジェンダーに基づく暴力とハラスメントは、女性と女児に不均衡な影響を与えることを認め、仕事の世界における暴力とハラスメントに終止符を打つためには、ジェンダーに基づく固定観念、複合的及び横断的形態の差別、ジェンダーに基づく不平等な力関係を含む、根本的原因及びリスク要因に対処するための、包摂的で、統合され、かつジェンダーに配慮したアプローチが必須であることを認識し、
ドメスティック・バイオレンスは、雇用、生産性、健康及び安全に影響を与え得ること、また政府、使用者団体及び労働者団体並びに労働市場に関する制度においてドメスティック・バイオレンスの影響力を認識し、他の諸措置の一環として、それに対応し及び対処するための支援を可能にすることに留意し、
会期の議事日程の第 5 議題である、仕事の世界における暴力とハラスメントに関する提案の採択を決定し、
その提案が国際条約の形式をとるべきであることを決定して、
次の条約(引用に際しては 2019年の暴力とハラスメント条約と称することができる。)を2019年6 月21日に採択する。

 I 定義

第1条
1 この条約の適用上、
(a) 仕事の世界における「暴力とハラスメント」とは、単発的か反復的なものであるかを問わず、身体的、精神的、性的又は経済的害悪を与えることを目的とした、またはそのような結果を招く若しくはその可能性のある一定の許容できない行為及び慣行またはその脅威をいい、ジェンダーに基づく暴力とハラスメントを含む。
(b) 「ジェンダーに基づく暴力とハラスメント」とは、性またはジェンダーを理由として、直接個人に対して行われる、または特定の性若しくはジェンダーに不均衡な影響を及ぼす暴力およびハラスメントをいい、セクシュアル・ハラスメントを含む。
2 本条第1項(a)及び(b)に影響を与えることなく、国内法令においては、単ーの概念または別々の概念として定義することができる。

 II 範囲

第2条
1 この条約は、国内の法律及び慣行により定義される被用者、契約上の地位にかかわらず働く人、インターン及び見習いを含む訓練中の人、雇用が終了した労働者、ボランティア、求職者及び応募者、並びに使用者の権限、義務または責任を行使する人を含む、労働者及び仕事の世界における労働者以外の人を保護する。
2 この条約は、民間か公共か、都市におけるものか地方におけるものかを問わず、公式経済及び非公式経済の双方におけるすべての産業部門に適用する。

第3条
この条約は、仕事の過程において、または仕事に関連して若しくは起因して生じる、以下に掲げる仕事の世界における暴力とハラスメントに適用する。
(a) 仕事を行う場であって、公的及び私的な空間を含む職場
(b) 労働者が賃金を支払われる場所、休憩または食事をとる場所、若しくは労働者が利用する衛生、洗面所及び更衣設備
(c) 仕事に関係する出張、移動、訓練、行事または社会活動中
(d) 情報通信技術により可能となるものを含め、 仕事に関係する連絡を通じたもの
(e) 使用者が提供する住居、及び
(f) 往復の通勤時

III 基本原則

第4条
1 この条約を批准する加盟国は、暴力とハラスメントのない仕事の世界に対するあらゆる人の権利を尊重、促進及び実現する。
2 加盟国は、国内の法律及び事情にしたがい、かつ、代表的な使用者団体及び労働者団体と協議の上、仕事の世界における暴力とハラスメントの防止及び撤廃のための包摂的で、統合され、かつジェンダーに配慮したアプローチを採用する。そのようなアプローチは、該当する場合には、第三者が関係する暴力とハラスメントを考慮するとともに、次に掲げる事項を含むべきである。
(a) 暴力とハラスメントの法律上の禁止
(b) 関連する政策における暴力とハラスメントへの対処の確保
(c) 暴力とハラスメントを防止しこれと闘うための措置の実施に向けた包括的な戦略の採用
(d) 執行及び監視の仕組みの確立または強化
(e) 被害者の救済利用及び支援の確保
(f) 制裁の規定
(g) 必要に応じた、利用可能な形式における、手段、指針、教育及び訓練の確立並びに意識啓発、及び
(h) 労働監督機関または他の権限を有する機関 を通じたものを含め、暴力とハラスメントの事案の監督及び調査のための効果的な手段の確保
3 本条第2項に規定されるアプローチの採用及び実施にあたり、加盟国は、政府、使用者、労働者及びそれらの団体の異なる補完的な役割及び機能を、それらの責任の性質及び範囲の多様性を考慮に入れて、認識する。

第5条
仕事の世界における暴力とハラスメントを防止及び撤廃する観点から、加盟国は、労働における基本的原則及び権利、すなわち、結社の自由及び団体交渉権の効果的な承認、あらゆる形態の強制労働の禁止、児童労働の実効的な廃止並びに雇用及び職業における差別の排除を尊重し、促進し、かつ実現し、またディーセント・ワークを促進する。

第6条
加盟国は、女性労働者、並びに仕事の世界における暴力とハラスメントによって不均衡に影響を受ける一または二以上の脆弱な集団または脆弱な状況に置かれている集団に属する労働者及び他の人のためのものを含む、雇用及び職業における平等及び無差別の権利を確保する法令及び政策を採用する。

 IV 保護及び防止

第7条
第1条に影響を及ぼすことなく、またこれに適合するように、加盟国は、ジェンダーに基づく暴力とハラスメントを含む、仕事の世界における暴力とハラスメントを定義及び禁止する法令を制定する。

第8条
加盟国は、次に掲げる事項を含む、仕事における暴力とハラスメントを防止するための適切な措置をとる。
(a) 非公式経済の労働者の事案における公的機関の役割の重要性の認識
(b) 関係する使用者団体及び労働者団体との協議の上、及び他の手段を通じた、労働者及び関係する労働者以外の人が暴力とハラスメントに暴露しやすい産業部門または職種及び働き方の特定、及び
(c) かかる人々を効果的に保護する措置

第9条
加盟国は、ジェンダーに基づく暴力とハラスメントを含む、仕事の世界における暴力とハラスメントを防止するために、使用者に対し、その支配の程度に応じた適切な措置を採るとともに、とりわけ、合理的に実行可能な範囲で、次に掲げる事項を行うことを要求する法令を採用する。
(a) 労働者及びその代表者との協議の上で、暴力とハラスメントに関する職場方針の採用及び実施
(b) 暴力とハラスメント及び関連する心理社会的リスクについての職業上の安全及び健康の管理の側面における考慮
(c) 労働者及びその代表者の参加の下での、暴力とハラスメントの危険の特定及びリスクの評価、並びにそれらを防止及び管理するための措置、及び
(d) 本条(a)で規定する方針に関連した、労働者及び他の関係者の権利及び責任を含め、特定された暴力とハラスメントの危険及びリスク、並びに関連する防止及び保護措置に関する情報及び訓練の、必要に応じた利用可能な形式での、労働者及び他の関係者に対する提供

 V 執行及び救済

第10条
加盟国は、次に掲げる事項のための適切な措置を行う。
(a) 仕事の世界における暴力とハラスメントに関する国内法令の監視及び執行
(b) 次に掲げるような、仕事の世界における暴力とハラスメントの事案における、適切かつ効果的な救済の容易な利用並びに安全、公正かつ効果的な通報及び紛争解決の制度と手続きの確保
(i) 申立及び調査手続、並びに適当な場合における、職場レベルの紛争解決制度
(ii) 職場外の紛争解決制度
(iii) 裁判所または裁決機関
(iv) 申立人、被害者、証人及び通報者に対する加害または報復からの保護、及び
(v) 申立人及び被害者のための法的、社会的、医療的及び行政的支援制度
(c) 可能な範囲かつ適当な場合には、関係者となった個人のプライパシーの保護及び秘密保持、並びにプラ イバシー及び秘密に関する要請が悪用されないことの確保
(d) 適切な場合における、仕事の世界における暴力とハラスメントの事案における制裁の規定
(e) 仕事の世界におけるジェンダーに基づく暴力とハラスメントの被害者が利用できる、ジェンダーに配慮した安全かつ効果的な申立及び紛争解決の制度、支援、サービス及び救済の提供
(f) ドメスティック・バイオレンスの影響の認識、及び合理的に実行可能な範囲での仕事の世界における影響の緩和
(g) 労働者が、暴力とハラスメントにより生命、健康または安全に緊急かつ重大な危険があると信ずるに足りる合理的な根拠がある仕事の状況から、報復若しくは不当な結果を被ることなく、また管理者にこれを報告する義務を負うことなく離脱する権利の確保、及び
(h) 労働監督官及び他の関連する機関が、適当な場合には、法律によって定められることのある司法機関または行政機関に対するあらゆる上訴権に服する、即時の強制力のある措置を要求する命令、及び生命、健康または安全への差し迫った危険がある場合に仕事を停止させる命令を発することを含む、仕事の世界における暴力とハラスメントに対処するための権限が与えられていることの確保

 VI 指針、訓練及び意識啓発

第11条
各加盟国は、代表的な使用者団体及び労働者団体と協議の上、次に掲げる事項を確保する。
(a) 職業上の安全及び健康、平等及び無差別並びに移民に関する政策を含め、関連する国内政策における仕事の世界における暴力とハラスメントへの対処
(b) ジェンダーに基づく暴力とハラスメントを含む、仕事の世界における暴力とハラスメントに関する指針、資源、訓練または他の手段の、必要に応じた利用可能な形式における、使用者、労働者、それらの団体及び関係機関への提供、及び
(c) 意識啓発キャンペーンを含む取組みの実施

 VII 適用手段

 第12条
この条約の規定は、国内法令または労働協約によって、また暴力とハラスメントを対象に含めるための既存の職業上の安全及び健康上の措置の拡大若しくは適合及び必要な場合には特別の措置の策定によることを含む、国内慣行に適合する他の方法により適用される。

 VIII 最終条項

 第13条
この条約の正式な批准は、登録のため国際労働事務局長に通知する。

 第14条
1 この条約は、加盟国であって自国による批准が国際労働事務局長に登録されたもののみを拘束する。
2 この条約は、二の加盟国の批准が事務局長に登録された日の後12か月で効力を生ずる。
3 この条約は、その効力が生じた後は、いずれの加盟国についても、自国による批准が登録された日の後12か月で効力を生じる。

 第15条
1 この条約を批准した加盟国は、この条約が最初に効力を生じた日から10年を経過した後は、登録のため国際労働事務局長に通知する文書によってこの条約を廃棄することができる。廃棄は、登録された日の後1年間は効力を生じない。
2 この条約を批准した加盟国であって1項に規定する10年の期間が満了した後1年以内に本条に定める廃棄の権利を行使しないものは、更に10年間拘束を受けるものとし、その後は、新たな10年の期間の最初の年に、本条に定める条件にしたがってこの条約を廃棄することができる。

 第16条
1 国際労働事務局長は、国際労働機関の加盟国から通知を受けたすべての批准及び廃棄の登録についてすべての加盟国に通告する。
2 国際労働事務局長は、通知を受けた2番目の批准の登録について加盟国に通報する際
に、この条約が効力を生じる日につき加盟国の注意を喚起する。

 第17条
国際労働事務局長は、国際連合憲章第102条の規定による登録のため、前諸条の規程にしたがって登録されたすべての批准及び廃棄の完全な明細を国際連合事務総長に通知する。

 第18条
国際労働機関の理事会は、必要と認めるときは、この条約の運用に関する報告を総会に提出するものとし、また、この条約の全部または一部の改正に関する問題を総会の議事日程に加えることの可否を検討する。

 第19条
1 総会が、この条約を改正する条約を新たに採択する場合には、その改正条約に別段の規
定がない限り、
(a) 加盟国によるその改正条約の批准は、その改正条約が自国について効力を生じたときは、第15条の規定にかかわらず、当然にこの条約の即時の廃棄を伴い、
(b) この条約は、その改正条約が効力を生ずる日に加盟国による批准のための開放を終了する。
2 この条約は、これを批准した加盟国であって1項の改正条約を批准していないものについては、いかなる場合にも、その現在の形式及び内容で引き続き効力を有する。

 第20条
この条約の英文及びフランス文は、ひとしく正文とする。
 

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