「本当にテレワークは必要なのか」を考えるための論点 (10/28)

「本当にテレワークは必要なのか」を考えるための論点
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2019/10/28(月) 8:00配信 ITmedia NEWS

(写真:ITmedia NEWS)

 「働き方改革」の一環として、テレワーク導入を検討する企業が増えている。2018年に国土交通省が発表した「平成29年度テレワーク人口実態調査」によれば、民間企業や組織、官公庁等で働いている人のうち、勤務先にテレワーク(※)制度等があると回答した割合は16.3%だった。前年度調査の14.2%からわずかに増加している。

テレワークは本当に必要?(画像)

※:同調査の中では「ICT等を活用し、普段仕事を行う事業所・仕事場とは違う場所で仕事をすること」と定義

 20年の東京オリンピック・パラリンピックで予想される交通機関の混雑や、多発する自然災害への対応などの観点からも、この数字は今後も増えていくと考えられる。

 テレワークの導入で、企業はどのようなメリットを得られるのか。また、どのようなデメリットに注意する必要があるのか。あらためて整理してみたい。

 一口に「テレワーク」といっても、さまざまな種類がある。ここでは、テレワーク人口実態調査で採用されているテレワーカーの定義を見てみたい。

1. 在宅型テレワーカー:自宅でテレワークするテレワーカー
2. サテライト型テレワーカー:自社の他事業所、または複数の企業や個人で利用する共同利用型オフィスやコワーキングスペース等でテレワークするテレワーカー
3. モバイル型テレワーカー:顧客先、訪問先、外回り先、喫茶店、図書館、出張先のホテルなどや、移動中にテレワークするテレワーカー

テレワークのメリット
テレワークの話になると、「上司の目が届かなくなると、どうせ社員はサボるだろう」「家でゴロゴロしちゃうんじゃない?」というネガティブな反応が生まれがちだ。そういう反応があるのも理解はできるが、なぜ「普段仕事するオフィスと違う場所で働くこと」が悪いイメージにつながるのだろうか。

 多くのビジネスパーソンの間では、「仕事は、関係者が同じ時間・同じ場所に集まって行うもの」という暗黙の了解がある。確かに関係者が物理的に同じ時間と空間に集まって作業したり、コミュニケーションしたりすると、何かと都合が良い。目の前に関係者がいれば、必要な資料をすぐに手渡せるし、細かい指示やアドバイスをしたり、相手の表情や態度から本音を探ったりすることも容易だ。

 だが「同じ時間・同じ空間に集まる」ことが当たり前になると、さまざまなコストやリスクも生まれる。特に定時が決まっていると、毎朝満員電車に乗ることが増えるため、心理的なストレスが大きくなる。家が遠い場合は、通勤に時間とお金が掛かるし、電車が遅れるリスクもある。

 「同じ時間・同じ空間に集まらなくても良いようにする」ことは、決して「好き勝手に仕事の時間と場所を選ばせる」ことではない。正確には「自分にとって最高のパフォーマンスが発揮できる時間と場所を、働く人が選べるようにする」という意味であり、それを実現するものがテレワークなのである。

 例えば総務省は、具体的なテレワークの意義・効果として、次の例を挙げている。これらは全て、最適な時間・空間で働くことによって生まれる価値だ。

・少子高齢化対策の推進
・ワーク・ライフ・バランスの実現
・地域活性化の推進
・環境負荷軽減
・有能・多様な人材の確保生産性の向上
・営業効率の向上・顧客満足度の向上
・コスト削減
・非常災害時の事業継続

 テレワークの本質を考えることは、そのメリットを正しく認識する上で重要だ。テレワークは決して「やむを得ず導入する施策」ではなく、私たちが当たり前だと思って見落としている問題を解決する手段なのだ。

テレワークのデメリット
とはいえ、皆が同じ環境に集まって仕事をすることに利点がなければ、それが働き方のスタンダードになるわけがない。テレワークのデメリットを考えるために、あえて「いつものオフィスで仕事をすること」のメリットを考えてみたい。ここで挙げるメリットは、テレワークでは実現が難しいものだからだ。

 1つ目のメリットは、顔を合わせることでコミュニケーションが容易になるという点である。テクノロジーの進化でさまざまなコミュニケーションツールが生まれたが、伝わる・伝えられる情報量の多さと手軽さという点では、対面でのやりとりに勝るものはない。テレワークでそれが不可能になれば、指示・報告内容の誤解による手戻りや、テレワーカーの心理的・身体的問題への気付きの遅れ、ツールを介したコミュニケーションによる負担の増加といった問題が拡大するだろう。

 2つ目は、仕事とプライベートが明確に切り分けられるという点だ。物理的に移動するのは大変だが、それにより「仕事の時間・空間」と「余暇の時間・空間」がはっきりと分かれる。仕事の空間には「仕事に必要なもの」しかないはずなので、気が散る可能性が減るというメリットも考えられる。

 この点は、テレワークで全く実現できないわけではない。サテライト型テレワーカーは、コワーキングスペースなど通常のオフィスに近い空間で働いているはずだし、モバイル型テレワーカーも自分にとって集中力の途切れない環境を選ぶことができる。ただし、いつでもどこでも働けるので、仕事のやめどきが分からず、労働時間が増えてしまうケースは考えられる。

 実際に平成29年度テレワーク人口実態調査によると、アンケート対象者の34.7%が「仕事時間(残業時間)が増えた」と回答しており、マイナス効果の第1位となっている。残業を減らすための働き方改革で残業時間を増やしてしまっては本末転倒だろう。

 そして3つ目のメリットが、仕事に適した空間を低コストで実現できる点だ。例えばセキュリティ面を考えると、仕事の空間が限定されているほうが企業にとっては望ましい。機密書類や新商品のプロトタイプなど、物理的に重要なモノは金庫や鍵のかかった部屋に保管しておけば良いし、データをやりとりするときもセキュアな社内ネットワークを用意しておけば済む。

 しかし、テレワークによって仕事をする人があちこちに点在することになれば、その対応でセキュリティにかかるコストは上昇する。コストが増えるならまだしも、これまで想定していなかったリスクや攻撃が発生するかもしれない。

 もっと単純な例も考えられる。例えばオフィスには、広いデスクや座りやすい椅子、飲み物やお菓子、大きなモニターや高度な複合機などがあり、「仕事をしやすい環境」が整っている。これらを個人でそろえ、オフィスと同じくらいの生産性を自宅で実現するのは至難の業だ。

 平成29年度テレワーク人口実態調査におけるアンケートでは、テレワークによるマイナス面の効果の第2位に、「業務の効率が下がった」(28.2%)がランクインしている。これは先ほどの「仕事とプライベートを切り分けるのが難しい」が原因になっている可能性もあるが、オフィス並みの仕事環境を全てのテレワーカーに提供できないという点が、少なからず影響しているだろう。

デメリットを乗り越えるには
それでは仕事というものは、関係者が一堂に会して行うのが良いのか、それとも好きな時間・好きな場所で行うのが良いのか――実はこう問いかけること自体が、間違っているのかもしれない。

 私たちが同じ場所で仕事するという文化を築いてきたのは、それにメリットがあったからという理由に加えて、「そもそも、そうするしかなかったから」という理由が大きい。私たちは、上司や同僚から対面で指示やアドバイスを受け、成果物を手渡すことで、顔色から相手の心境を推しはかったり、自分の希望をそれとなく伝えたりすることができた。

 こうした働き方を離れた場所から実現できるよう、高度なICT技術を利用するという方向性もある。例えば「テレプレゼンス(テレイグジスタンス)・ロボット」は、物理的なロボットをオフィス等に置き、それを自宅から操縦することで、あたかも操縦者が同じ空間に存在しているかのような感覚をつくり出すことができる。このような技術がさらに進化すれば文字通り、遠隔地から他の人々と同じ場所で仕事をできるようになるかもしれない。

 しかし、高度な技術がなくてもちょっとした工夫で新しい働き方を文化として確立できるはずだ。例えば、曖昧な指示を避ける、頻繁に会話して意識的に相手の様子を探る、希望や要求を明確に文章化しておく――といったことはテレワークを成功させるためにも必要だ。

 実際にテレワークを成功させている企業は、単に優れたテクノロジーを導入するだけでなく、それを正しく活用するための組織や制度作りをしていることが多い。むしろ、従来のルールや慣習を残したままでテレワークを活用するほうが難しいだろう。

 テレワーク導入は必然的に、テクノロジーを越えた総合的な取り組みになる。それをどこまで進められるかが、デメリットをできる限り抑え、メリットを実現するカギだ。
ITmedia NEWS 

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