人手不足、オーナーと本部、食品ロス…課題山積の「コンビニ」、今後進むべき道は?
https://otonanswer.jp/post/56130/
2019.12.29 著者 : オトナンサー編集部
アドバイザー : 渡辺広明(わたなべ・ひろあき)著書案内(渡辺広明)
人手不足、加盟店オーナーと本部の対立など、2019年はコンビニ業界でさまざまな問題が噴出しました。コンビニは今後、どうなるのでしょうか。
〔写真〕残業代未払い問題で謝罪するセブン−イレブン・ジャパン幹部(2019年12月、時事)
2019年はコンビニ業界で大きな動きがありました。2月、人手不足を理由に時短営業を強行したセブン-イレブンの加盟店と本部との対立が報道され、加盟店に契約解除や違約金の可能性をちらつかせる本部の対応が批判されました。その後、コンビニ各社は人手不足を解消すべく、時短営業や無人店舗の実証実験を行うなど、対応に追われました。
他にも、食品ロスや加盟店の負担軽減など課題が山積みのコンビニ業界ですが、2020年以降、どうなっていくのでしょうか。「コンビニが日本から消えたなら」(KKベストセラーズ)を12月27日に出版した流通アナリストの渡辺広明さんに聞きました。
人手不足は喫緊の課題
Q.2019年はコンビニ業界でさまざまな問題が噴出しました。
渡辺さん「1974年に東京・豊洲でセブン-イレブンの1号店がオープンして以降、日本のコンビニ業界は顧客のニーズを取り入れながら発展し、世界最高峰ともいえる店舗をつくり上げることに成功しました。全国の店舗が24時間営業で、常に良質な商品を取りそろえる店舗は世界中探しても見つかりません。
ただ、このような成功は加盟店オーナーに負担を強いたり、食品を大量に廃棄したりするなど、いくつかの犠牲の上に成り立ってきたともいえます。コンビニの年間来店客数は約174億人で、コンビニは日本社会の縮図とも言われ、社会的な課題が真っ先に現れます。2020年は、こうした社会的課題の解決にも取り組んでいかなければなりません」
Q.優先的に解決しなければいけない課題は。
渡辺さん「人手不足の問題、本部と加盟店オーナーの関係改善です。現在、コンビニ店では多くの優秀な外国人労働者が働いています。しかし、日本経済は斜陽になりつつあり、将来的に外国人労働者が日本に来なくなる可能性は高いです。そうなれば、東京都内、特に山手線内の店は運営できなくなります。アルバイトなしで運営できる仕組みを本部は考えねばなりません。
本部とオーナーとの関係についても見直しが必要です。加盟店からの不満が噴出し、収拾がつかなくなっているのは、これまでオーナーをないがしろにしてきた本部にすべての責任があります。
根本的な問題は、オーナーを募集する際に『誰でも店を経営できる』などとうたい、本人の適性を考えずに採用した点にあります。商品の発注や接客などは経験を積むことでこなせるようになりますが、唯一、本部が指導してもできないことはアルバイトのマネジメントです。
マネジメントは人対人の業務のため、人付き合いが苦手な人には向きません。マネジメントがうまくいかなければ、アルバイトの離職やそれに伴う作業の負担増加につながり、店舗の運営にも影響が出ます」
Q.人手不足解消に必要なことは。
渡辺さん「一番効果があるのは、セルフレジの積極的な導入だと思います。コンビニの客には、丁寧に接客してもらいたい人と短時間で買い物を済ませたい人の2種類がいます。後者がセルフレジを使うことで、接客の時間や労力の節減につながります。
また、12月にセブン-イレブンの実験店舗(麹町駅前店)で導入された、たばこの新型装置にも期待しています。顧客がタッチパネルでたばこの銘柄を選択すると、レジの後ろにある商品棚の該当商品のランプが点灯する仕組みです。
たばこはコンビニ売り上げの約25%を占める必要不可欠な商品です。現在は商品棚に書いてある番号を店員に伝えて購入するのが主流ですが、約3割の客は購入時に番号ではなく、銘柄を言います。すると、店員は商品を探すのに時間がかかり、顧客を待たせてしまいます。こうした装置が導入されれば、店員、顧客双方のストレスを軽減できます」
Q.加盟店オーナーの問題について、どのような改善が必要でしょうか。
渡辺さん「先述したように。適性を見てから採用する必要があります。『誰でも経営できる』ではなく、『マネジメント能力のある人であれば誰でも経営できる』という形で募集すべきです。
加盟店のオーナーは労働者ではなく個人事業主であるとされ、微妙な立場です。今後、不安定な立場のオーナーを守る法律が生まれる可能性があります。その際、地域に同一系列店を集中出店するドミナント戦略についても、『店舗から○メートル以内に出店をしてはならない』といった規制を設ける可能性もあります。
オーナーの能力にもよりますが、既存店の近くに同一系列の新店を出店する場合、既存店オーナーに優先的に新店の経営権を与え、複数店を運営させた方がいいと思います。そうすれば、オーナーは少なくとも新規出店におびえる必要なく、既存店舗の売り上げをコントロールできます」
コンビニが生き残っていくために
Q.食品ロスも社会的な問題となっています。
渡辺さん「私が調べた限りでは、コンビニでは1店当たり1日10〜15キロの食べ物が廃棄されています。全国には5万8669店(2019年9月時点)のコンビニがあり、単純計算すると、年間21万〜32万トンの食品ロスが発生している計算になります。食品ロスは減らすべきです。
一方で、コンビニ業界は商品を大量に仕入れて販売することで、欠品による販売機会の損失(機会ロス)を極力減らし、成長してきました。機会ロスと食品ロスを同時に減らすのは容易ではありません。そこで、コンビニ業界では(1)廃棄が近づいている商品の値引き販売やポイント還元(2)恵方巻きやクリスマスケーキをはじめとした季節商品の完全予約制(3)店頭に置ける期間の長いチルド食品・冷凍食品の販売拡大――といった取り組みを始めています。
(1)で値引き合戦が生じる懸念があるなど対策は万全ではありませんが、各社の動向に注目したいところです」
Q.コンビニが生き残っていくために必要なことは。
渡辺さん「何度も強調しますが、日本のコンビニは世界最高峰の小売店舗です。日本でラグビーワールドカップが開催された今秋、来日した記者の中で、『優勝国予想より、どのコンビニのサンドイッチが一番うまいかを予想する方が難しい』と言った人もいました。それだけ、日本のコンビニは海外の人にとって魅力的です。2020年の東京五輪・パラリンピック、2025年の大阪万博は、外国人観光客へうまくアピールできるチャンスです。
また、コンビニ各社は海外にも出店していますが、コンビニのビジネスモデルは、一般人が経済的にある程度成功している国で通用します。今後、東南アジアが発展することが予想されるため、そうした国々に積極的に出店していけば、海外で売り上げを伸ばすことができるのではないでしょうか。
解決すべき課題はいずれも難易度が高いものばかりですが、コンビニ業界はこれまでに世界最高峰の小売店舗をつくり上げてきましたし、最近は、本部が加盟店オーナーに寄り添い始めています。難局をうまく乗り切れると思います」
(オトナンサー編集部)
渡辺広明(わたなべ・ひろあき)
流通アナリスト、マーケティングアナリスト、コンビニジャーナリスト
1967年4月24日生まれ。浜松市出身。東洋大学法学部経営法学科卒業後、ローソン入社。22年勤務し、店長、スーパーバイザーを経てコンビニバイヤーを16年経験、約700品の商品開発を行う。同社退社後、pdc、TBCグループを経て、2019年3月、やらまいかマーケティング(https://www.yaramaikahw.com/)を設立。同時期に芸能事務所オスカープロモーションに移籍し、オフラインサロン「流通未来研究所」を開設。テレビ、ラジオなどで幅広く活動する。著書に「コンビニの傘はなぜ大きくなったのか」(グーテンブック)「コンビニが日本から消えたなら」(KKベストセラーズ、12月27日発売予定)。