増加する「黒字リストラ」 垣間見える企業の苦しい“ホンネ” (1/17)

増加する「黒字リストラ」 垣間見える企業の苦しい“ホンネ”
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2010/01/17(金) 7:20配信 ITmedia ビジネスオンライン

増加する「黒字リストラ」 垣間見える企業の苦しい“ホンネ”
元GEのCEO、ジャック・ウェルチ氏(2000年、ロイター)

 企業の「黒字リストラ」が増加している。

 東京商工リサーチによれば、2019年にリストラを実施した上場企業は27社に増加し、その人数は1万342人と、6年ぶりに1万人を超えた。

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 その中には、ジャパンディスプレイや東芝のように「業績不振」を理由としたリストラも多い。しかし、今回注目すべきは、「黒字リストラ」事例の増加だ。業績が好調にも関わらず、早期・希望退職を募った上場企業は、リストラ実施企業のうち、実に34.4%にものぼった。

 アステラス製薬やエーザイ、カシオ計算機といった、業績が一見好調とみられる大企業も、19年に黒字リストラに踏み切った。

黒字リストラは、GEの“ニュートロン”経営に似ている
業績が好調な中でのリストラといえば、20世紀末のゼネラル・エレクトリック(GE)CEO、ジャック・ウェルチ氏の経営手法が思い出される。

 同氏は、81年に46歳でCEOの座に就いてから、「選択と集中」という今では有名な経営論を編み出し、これにより事業を立て直した。同氏の在任期間であった20年もの間、GEは一度も減収や減益にならなかった。その功績もあり、99年にはフォーチュン誌の「20世紀最高の経営者」に選ばれた「経営者のレジェンド」ともいうべき存在だ。

 一方で、ウェルチ氏は、そのシビアな経営手法から、度々中性子(ニュートロン)爆弾に例えられた。彼は、当時の全社員の約25%に相当する、10万人規模の従業員リストラを断行したことがきっかけで、「ニュートロン・ジャック」という異名を持った。

 中性子爆弾は、建物を残したまま、中にいる人間を死に至らせる核兵器だ。ウェルチ氏の経営手法は、大規模なリストラによって会社という建物を守り、中にいる従業員は切り捨てる「中性子爆弾のようなもの」であるという批判の声も根強かったのだ。

 当時のウェルチ氏が断行したニュートロン経営だが、実は日本における黒字リストラも、構造としては“ニュートロン”的であるといっても差し支えないだろう。

 ウェルチ氏は、従業員のうち、下位10%を解雇する「10%ルール」を敷いた一方で、優秀な社員に対する報酬を手厚くするといった人事戦略をとっていた。この点も、昨今の大手企業がとっている戦略と合致する。

 例えば、18年にはNECが3000人ほどの早期退職者を募集するかたわらで、新卒に年収1000万円をオファーすることを発表した。また、19年には富士通が45歳以上の社員から早期退職を募る一方で、AI人材には最大4000万円の年収をオファーすることを発表するなど、多くの企業が従業員の待遇に傾斜を設けつつあることが分かる。

 確かに今のGEに「10%ルール」制度は存在しないが、かつての膿(うみ)を出し切ったGEと違い、日本企業はこれまで大規模なリストラを行っていない。そのため、日本が今後もGEと似た戦略をとると考えれば、パフォーマンスによる足切り制度の導入や、新株予約権の付与といった人事制度の導入も決して遠い未来の話ではなくなるだろう。

伸び悩みというホンネも垣間見える
会社が黒字で、体力があるときだからこそ、年功序列から実力主義の構造改革を進められるとも思えるが、「このタイミングでの実施」というのも側面からみれば、企業側の苦しい本音もうかがえる。

 図表は、内閣府が公表している「景気ウォッチャー調査」の時系列推移を表したものだ。この指数が50ポイントであれば、企業の景況感は横ばいで、それを下回ると不景気であるとされる。推移をみると、18年頃に50ポイント超えを果たして以降は、一転して下げ基調となっている。

 特に、消費税増税による駆け込み需要の反動減が著しかった。その結果、19年10月にはアベノミクス始動以来の最低値である36.7ポイントを記録し、最新値でも40ポイントを下回っている状況だ。

 財務省が先月公表した、19年第2四半期の法人企業統計をみても、設備投資が順調である裏で、売上高は伸び悩みの様相を示している。企業の売上高は、製造業、非製造業ともに16年第2四半期以来の減収となったのだ。

 そもそも経営戦略とは、将来を見据えた会社のあるべき姿を定義する計画である。たとえいまは順調であると市場が評価していても、経営層は近い将来に苦境が訪れると考えているのかもしれない。その苦境に先手を打つ形で講じた対策が「黒字リストラ」なのではないだろうか。

 売上高は商品が売れなければ成長しないが、商品が売れなくても利益は成長させることができる。

 例えば、年収800万円の45歳の社員を1000人リストラすると考える。社員の管理コストを加味すると、社員1人にかかるコストは、年収の2倍程度、1600万円が相場だ。これを単純計算すると、定年までの20年で1人あたり3億2000万円のコストカットとなる。1000人なら3200億円の利益押し上げ要因だ。この規模であれば、ここから割増退職金を支給したとしても決して無視できない経営効果が期待できるだろう。

 このように、黒字リストラには「簡単に成果が出る」という側面もある。ゼロから3200億円もの利益を生み出す事業開発は、長い時間がかかるだけでなく、不確実性も高い。一方で、3200億円分の人件費カットは、やることが単純で成果もすぐに出てくる。

 しかし、リストラは収益機会がないことの裏返しであり、中長期的に収益を生み続ける施策ではない。このように考えると、黒字リストラ機運の高まりは、実力主義への移行という文脈だけでなく、日本企業の先細りを示唆するシグナルという文脈でも検討する必要があるといえるだろう。

(古田拓也 オコスモ代表/1級FP技能士)

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