巧妙化するブラック企業 大阪SLS社の社員、告発

しんぶん赤旗 2014/02/13

月給20万円のはずが13万円余
求人「1日8時間」のはずが、実は11時間

 「月給20万円」の求人のはずが、入ってみたら「基本給13万円」。体を壊し、1カ月で戻れなければ「自然退職」。社員を使いつぶす会社に姿勢を改めてほしいと声を上げる女性がいます。専門家が「手法が巧妙化している」と指摘する実態とは―。(前田美咲)

 「こんなことになるとは思ってもみなかった」と語るのは、SLS株式会社(本社=大阪府吹田市)に勤める女性です。昨年3月に大学を卒業し、入社から5カ月後の9月に体調を崩して休職せざるを得なくなりました。

 同社はカギの開錠・交換・修理などを行う「ハイパーロックレスキュー」を運営しています。女性は顧客からの電話依頼に対応するコールセンターに所属し、「カギをなくして焦っているお客さまに、まずは安心してもらえるように」と仕事に励んできました。

 配属から3カ月後、勤務中に強い肩の痛みに襲われ、救急車で病院へ運ばれました。入社以来のストレスが限界に達していました。
 女性は「大卒月給20万 実動8時間(シフト制)」の求人を見て応募し、採用されました。

 ところが、実際は基本給13万8400円に、「月60時間相当」の残業代として「加給6万1600円」が組み込まれていました。仕事は朝7時から深夜1時までの交代勤務で、1日11時間拘束が前提でした。

 基本給は府の最低賃金800円(当時)に1カ月の所定労働時間をかけただけ。高卒の平均初任給約16万円さえ下回ります。

 電話が鳴れば休憩もままならず、残業は1日3時間、月66時間に及びます。厚労省の告示(指導基準)は残業を原則月45時間、年間では360時間までとしています。「特別の事情」がある場合は延長できる規定もありますが、会社は団体交渉で「特別の事情がなくとも年540時間は残業させている」と公言したといいます。

 余裕のない職場で女性は毎日のように先輩に怒鳴られました。2人きりで1時間以上、「発想がおかしい」「今のあなたに会社が給料を払いたいと思うか」などと責められたこともありました。感情を抑え込もうと手の甲や太ももに爪を立て、職場のトイレで泣くようになりました。

 救急車で搬送後、「抑うつ状態」との診断を受け、休職を申し出た女性に対し、会社は「1カ月で復職できなければ『自然退職』になる」と通告しました。「『復職しない』という事象が発生することによって退職という結果になる。解雇ではない」と説明します。

 地域労組おおさか青年部の北出書記長は「解雇の脱法的行為だ」と強調します。女性の相談に応じ、団交を支援しています。北出氏は「ウソの求人で学生を誘い込み、低賃金で長時間労働を強いる、体調を崩して休職すれば1カ月で何の保証もなく放り出す。労働者使い捨てのレールがしかれている」と憤ります。

 「違法・脱法行為からみて最悪のブラック企業だ。法律の専門家が悪知恵を出したマニュアルがあるのだろう」。長年、労働問題にとりくんできた森岡孝二・関西大学教授はこう指摘します。「非正規雇用が増大する一方、正社員の枠は狭まり、学生は条件の悪い企業でも就職せざるを得なくなった。国が規制しないと、労働条件の切り下げ競争に歯止めはない」

 女性は今も、夜眠れないなど、体調は万全ではありません。それでも団交を続けるのは確かな思いがあるからです。「仕事は好きなのに、胸を張って取り組むことができないのが悲しい。声を上げた人間を退職させ、違法行為を重ねた会社が利益を上げ続けるのはおかしい。普通に働いて普通に暮らしたいという願いをかなえてほしい」

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