朝日DIGITAL 2016年10月8日
http://www.asahi.com/articles/ASJB82FG7JB8UBQU007.html
写真(省略): 高橋まつりさんの遺影を掲げて記者会見する母親の幸美さん(中央)と代理人の弁護士=東京・霞が関の厚生労働省
広告大手、電通の新入社員だった高橋まつりさん(当時24)が、過労自殺だったとして労災認定された。母親の幸美さん(53)は7日、厚生労働省で記者会見し、「労災認定されても娘は戻ってこない。いのちより大切な仕事はありません。過労死を繰り返さないで」と訴えた。
電通の新入社員の自殺を労災認定
遺族側の代理人弁護士によると、高橋さんが配属されたのはインターネット広告を担当する部署だった。自動車保険などの広告を担当し、クライアント企業の広告データの集計・分析、リポートの作成などが主な業務だったという。
業務が大幅に増えたのは、試用期間が終わり、本採用になった昨年10月以降。部署の人数が14人から6人に減ったうえ、担当する企業が増えた。月100時間を超える時間外労働をこなしたこともあり、高橋さんは精神障害による労災認定の基準の一つを超えたと判断された。
電通では、社内の飲み会の準備をする幹事業務も新入社員に担当させており、「接待やプレゼンテーションの企画・立案・実行を実践する重要な訓練の場」と位置づけている。飲み会の後には「反省会」が開かれ、深夜まで先輩社員から細かい指導を受けていた。上司から「君の残業時間は会社にとって無駄」「髪がボサボサ、目が充血したまま出勤するな」「女子力がない」などと注意もされていたという。
「本気で死んでしまいたい」「寝たい以外の感情を失った」「こんなストレスフルな毎日を乗り越えた先に何が残るんだろうか」。高橋さんはSNSなどで友人や母親に、仕事のつらさを打ち明けていた。
心配した幸美さんが電話すると、まつりさんは「転職するか休職するか、自分で決断する」と答えた。11月には上司に仕事を減らしてもらうよう頼んでいた。幸美さんは「自分で解決してくれる」と娘を信じた。
昨年12月25日朝、まつりさんから幸美さんに「今までありがとう」とメールが来た。幸美さんが電話で「死んではだめ」と呼びかけると、まつりさんは「うん」と答えた。それが、最後のやりとりになった。
ログイン前の続き■過労自殺、再び電通で
電通では1991年にも入社2年目の社員(当時24)が自殺。電通は当時、会社としての責任を認めなかったが、00年3月の最高裁判決は「会社は過労で社員が心身の健康を損なわないようにする責任がある」と認定。過労自殺で会社の責任を認める司法判断の流れをつくった。電通はその後、遺族と和解。責任を認めて再発防止を誓った。
この裁判を担当したのが、高橋さん側の代理人を務めている川人博弁護士だ。川人氏は7日の会見で、労働時間の把握がずさんだったり、上司の安全配慮に対する意識が十分でなかったりした可能性を指摘。「企業責任は重大。抜本的な企業体質の改善が必要だ」と強調した。
「過労死・過労自殺のない社会をつくりたい」という遺族の願いから生まれた過労死等防止対策推進法が2年前に施行され、7日には初の「過労死等防止対策白書」が閣議決定された。
しかし、過労死・過労自殺は後を絶たない。最近は高橋さんのような若い世代が、心の病で自ら命を絶つケースが目立つ。
08年6月にはワタミグループの居酒屋で働く新入社員が自殺。月141時間の時間外労働があったとして、労災認定された。遺族が会社の法的責任を追及して提訴し、15年12月には会社や創業者の渡辺美樹氏(現自民党参院議員)が法的責任を認めている。
川人氏は「防止法の成立後も、職場の深刻な実態が続いている。国と企業が過労死防止に全力で取り組むよう心より訴えたい」と話した。
千葉卓朗、編集委員・沢路毅彦