山梨学院大学で異常事態…「非常勤講師切り捨て」とモラルの崩壊 (8/18)

山梨学院大学で異常事態…「非常勤講師切り捨て」とモラルの崩壊

8/18(日) 8:00配信 現代ビジネス
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190818-00066497-gendaibiz-soci&p=1

山梨学院大学で異常事態…「非常勤講師切り捨て」とモラルの崩壊

写真:現代ビジネス

山梨県庁で記者会見の「異常事態」
山梨県甲府市に広大なキャンパスを構え、法学部、経営学部、健康栄養学部、国際リベラルアーツ学部、スポーツ科学部の5学部6学科と、2つの研究科をもつ山梨学院大学。運営する学校法人山梨学院は、3800人以上の学生が通う大学のほか、幼稚園、小・中学校、高校、短大も有している。

 この山梨県を代表する総合大学で、異常な事態が起きているという。大学の非常勤講師2人と首都圏大学非常勤講師組合は6月24日、山梨県庁で記者会見し、次のように述べた。

 「山梨学院大学ではいま、非常勤講師の違法な定年切り下げや雇い止めが起きていて、多くの教員が追い詰められています。このまま放置するわけにはいきません」

 会見した講師らは、学校法人山梨学院が今年1月に甲府労働基準監督署から立ち入り調査を受けて、指導と是正勧告を受けたことを明かした。その理由は、労働基準法に定められた手続きをとらずに、非常勤講師の定年の切り下げや、65歳以上の講師を退職させることなどを定めた就業規則を作成していたからだ。

 しかし、是正勧告を受けても、山梨学院は就業規則を改めていない。そればかりか、5年以上勤務して無期雇用転換権を有している非常勤講師を雇い止めしていることもわかっている。山梨学院大学に何が起きているのか、取材した。

労基署が立ち入り調査、是正勧告
甲府労働基準監督署は今年1月28日、学校法人山梨学院に対して立ち入り調査を実施し、ただちに是正勧告を行った。

 問題となったのは、2018年4月に山梨学院が作成した非常勤講師の就業規則。慣例で70歳だった定年を65歳に引き下げ、65歳以上の講師は今年度末に退職してもらう、というものだ。しかし、在籍する約150人の非常勤講師たちは、このような就業規則が新たに作られていたことを知らなかった。

 山梨学院には、労働者の過半数が所属する組合がなく、就業規則を作成もしくは変更する場合には、すべての労働者の中から過半数代表者を選んで意見を求めることが労働基準法で定められている。違反すれば、30万円以下の罰金が課される。

 ところが山梨学院は、労働基準法で定められた手続きをとらずに、勝手に就業規則を作成していた。その上で非常勤講師の雇い止めを始めたのだ。

 労働基準監督署は、就業規則に盛り込まれた、非常勤講師にとって不利益な変更内容の取り扱いを検討するとともに、法律に沿った手続きをやり直すことを求めた。労基署がこれだけ明確に指導し、是正を勧告するケースは、全国的にも珍しい。それほど悪質だったといえる。

 にもかかわらず、山梨学院の就業規則の内容は、半年以上が経った現在も変わっていないのだ。

きっかけは非常勤講師の「雇い止め」
山梨学院が指導と是正勧告を受けたことを明らかにしたのは、非常勤講師として約15年勤務する高橋明弘さんと、同じく10年以上勤務している柴崎暁さん。2人が労基署に山梨学院の違法行為を申告した。

 高橋さんと柴崎さんが異変に気づいたのは去年10月。同僚だった40代の非常勤講師の女性が、大学から突然雇い止めを告げられた。

 2013年に改正された労働契約法では、非正規労働者が5年以上勤務した場合、無期雇用への転換権を得られるようになった。この講師は山梨学院に5年以上勤務していたことから、すでにこの権利を得ていた。

 ところが、講師が無期雇用への転換を申し込もうと思っていた矢先、大学の人事課から突然「あなたは今期限りです」と告げられた。学科を改編するためという理由だったが、実際は学部と学科の名前が変わっただけで、中身は変わっていなかったことがのちに判明している。

 つまりは無期雇用転換を逃れることが目的の、脱法行為が疑われる雇い止めだったのだ。

 この講師は大きなショックを受けて、告げられた通りに大学を辞めてしまった。しかし、この他にも雇い止めされそうになっている講師がいることが判明。高橋さんらは調査を進め、職員も知らないうちに学院の就業規則が作成されていたことを突き止めた。

 つまり、山梨学院は、無期転換権がある非常勤講師を雇い止めすると同時に、就業規則を作って65歳以上の非常勤講師を切り捨てる計画を立てていたのだ。

 高橋さんと柴崎さんは今年1月24日に労基署に申告。労基署がわずか4日後に大学に対して指導し、是正勧告したことから、2人は山梨学院に就業規則の撤回と手続きのやり直しを求めた。

就業規則変更を巡るゴタゴタ
指導と是正勧告を受けて山梨学院は今年3月、就業規則変更のための過半数代表者選挙を実施した。しかし、このとき学院側が提出してきた就業規則の改定案は、前年に作られたものと同じ内容だった。非常勤講師にとって不利益な変更は再度検討するように、という労基署からの指導を無視した形だ。

 選挙を実施した時期も問題だった。大学が春休み中の3月末に突然選挙を行うことを明らかにしたのである。立候補期間は土日を除くと3日間しかなく、投票期間に至っては2日間だけ。これでは多くの人が選挙を知らないまま終わってしまう。

 さらに投票の方法を、直接匿名秘密投票ではなく、記名投票とした。言うまでもないことだが、記名投票では、山梨学院側が事実上擁立した候補者に投票しなかった人物がわかってしまい、教職員が萎縮するおそれがあった。

 過半数代表者の選挙には、山梨学院側が擁立した候補と、柴崎さん、さらに「このままではまずい」と立ち上がった別の専任教員の3人が立候補。教職員の間に労働条件や労働環境に対する危機感が広がり、結局、山梨学院の思惑に反して専任教員が当選した。

 すると山梨学院はこの専任教員に、18年度・19年度と2年分の就業規則変更について意見書を作成させた。2年分の意見書を1度に書かせる行為は、適正とは言えない。

 しかも、専任教員がパソコンで作成した意見書を提出すると、山梨学院は所定のモデル形式を手渡し、A4用紙1枚に収めるようにと、手書きによる書き直しを強く指示した。書き直して提出すると、今度は「定年の引き下げなどの不利益変更をしないように」と意見を書いた部分を削除させたのだ。この書き直し要求は、労働基準法施行規則に抵触する。

 しかし山梨学院は「(過半数代表者の)意見が(就業規則に)反映されるものではないから」と、問題ないという姿勢だった。そのまま就業規則を労基署に届け出て「法的に有効」と主張。高橋さんと柴崎さんは「労基署の指導と是正勧告を無視している」と抗議している。これが現在の状況だ。

「研究者とはマッチングしない」
高橋さんと柴崎さん、それに首都圏大学非常勤講師組合が調査を進めるうちに、山梨学院が教員の雇用を非常に軽く見ていることがわかってきた。

 山梨学院の2016年の事業報告書を見ると、改正労働契約法によって非常勤講師を無期雇用に転換しなければならないことに対して、否定的な見解が明記されている。

 ?非常勤職員への対応について、当初の「雇い止め」から「無期転換」への方針転換を軸に検討を進める動きもあったが、結果的には「雇い止め」を実施することで最終的な経営判断が下された。今後は、「雇い止め」をめぐる具体的な対応と適正な実務を検討していく?

 これは改正労働契約法を無視することを堂々と宣言したものだ。全国の大学などで無期転換を嫌がって非常勤の教職員を雇い止めするケースが問題になったが、公式な文書で脱法行為をおこなう意思を明確にしているのは珍しい。

 しかも、専任教員や職員の待遇も改悪していた。今年4月以降、専任教員や職員の期末手当の乗率は、これまでの年間5・1ヵ月分から、評価によって3ヵ月分から4・6ヵ月分に変更されていた。平均的なB評価の場合は3・8ヵ月分の支給なので、ダウン幅は決して小さくない。評価の基準も明らかにされていない。

 さらに、山梨学院の考え方が明確にわかる資料もある。山梨学院の古屋光司理事長兼学長は、先代の理事長兼学長である父親の跡を継ぐ形で去年4月、39歳の若さで着任した。司法試験に合格して弁護士登録をしたのち、2006年4月から法人本部で勤務。副学長などを歴任した。この古屋理事長兼学長が教授会で示したとされるのが、次の文書だ。

 1枚目の冒頭には、?本学は、あくまで教育に特化する??高度な研究機関として評価される大学は目指さない?と掲げている。

 その上で、2枚目には?本学が求める大学教員像?が示され、一番下には?従来の日本の大学に見られる典型的な「研究者教員」を望む人は、今後、本学とのマッチングはない?と明記されている。

 言うまでもなく、大学の両輪は「研究」と「教育」であるはずだ。しかし「研究者は今後雇用しない」と受け止められる文言が、ここには堂々と書かれているのだ。

 大学では、上層部のモラル崩壊も起きているという。昨年度、特定の運動部に所属する学生10数人が、本来は単位を落としていたのに、大学が担当教員に知らせずに補講を実施して、学生に単位を与えたことがわかった。

 山梨学院大学がスポーツに力を入れていることは理解できる。だからといって、特定の部に所属する学生だけに、落としたはずの単位を秘密裏に与えていては、「何でもありの大学」だと思われても仕方がないのではないだろうか。

退職した教員の数は「答えられない」
労基署による指導と勧告の後も、就業規則作成の手続きが適法と言えないことと、非常勤講師の就業規則の内容が変わっていないことについて、山梨学院に質問した。広報からの回答は、次の通りだった。

 「今回の過半数代表者の選任については、労働基準監督署の是正勧告・指導に基づき、適切な対応・手続きを経て行っております。現在の山梨学院非常勤講師就業規則は法的にも有効であると考えております」

 定年を65歳に引き下げることついても「顧問弁護士に確認し、現行規則が法的に有効」という認識を示した。

 また、今後「研究者教員」を望む人とはマッチングしない、という教授会で示された内容について確認を求めると、事実と認めた上で次のように釈明した。

 「『研究者教員を望む人は、本学とのマッチングはない』という表現については、『今後、学生の成長につながるように更に教育に力を入れていく』という趣旨の現れです。各教員には、学部教育の充実(学生指導)とともに、学部教育やリベラルアーツ教育の向上につながる研究、これまでも本学が行ってきた地元山梨の経済・政治・行政の活性化に具体的に貢献できる研究、全学的国際化の実現を目指し、海外大学との共同研究や学術交流などを積極的に推進していただきたいと考えております」

 山梨学院は非常勤講師の無期転換について、現状では申し込みがあった場合は応じていると説明した。しかし、去年4月以降、何人の非常勤教員が退職したのかを訪ねると、「答えられない」と明らかにしなかった。

おかしな方向に進んでいる
労基署への申告者の1人である柴崎さんは、教員の雇用の問題が噴出してきたのは、現在の理事長が就任してからだと感じている。

 「理事長は就任の際、山梨に必要とされる、愛される学園にしたいと話していました。それが本当なら全面的に賛同します。しかし、おかしな方向に進んでいるのは明らかです。以前の山梨学院は普通に学問ができる場所でした。軌道修正してほしいと思っています」

 もう1人の申告者の高橋さんは、非常勤講師だけではなく、常勤の教員や職員も追い詰められていると指摘している。

 「私たちのところには、教員からかなりの数の相談が来ています。闇は深いと思っています。辞めざるを得なかった人も少なくないはずで、いまも多くの人が追い詰められていると感じています」

 首都圏大学非常勤講師組合では、7月と8月に甲府市内で説明会を開催した。今後は山梨県内の教職員を対象にしたユニオンを結成するために支援していくという。

 また組合は、労基署から是正勧告を受けた後も適正な手続きがとられていないなどとして、現在も山梨学院に就業規則の撤回を求めて交渉を申し入れている。松村比奈子委員長は「山梨学院大学の行為はこのまま放置しておくわけにはいかないレベルだと考えています。このような不正がまかり通る環境は改善しないと、大変なことになるのではないでしょうか」と危惧している。

 しかし、山梨学院が態度を変える気配はなく、現状では解決の道は見えていない。

田中 圭太郎

 

この記事を書いた人