通販サイト「楽天市場」 出店者らが運営の改善求め組合設立 (11/9)

通販サイト「楽天市場」 出店者らが運営の改善求め組合設立
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NHK News 2019年11月9日 20時02分IT・ネット

「プラットフォーマー」と呼ばれる巨大IT企業が運営する通販サイト。

独占的にサービスを提供する優位な立場を利用して取引先の企業に不当な契約を強いるケースが懸念されています。

こうした中、楽天が運営する日本最大級の通販サイト「楽天市場」の出店者らが、組合を結成し、楽天に対して運営の改善を求める活動を始めました。

「プラットフォーマー」と呼ばれる巨大IT企業をめぐっては公正取引委員会が先月、急拡大する通販サイトなどの実態調査の報告書を公表し、優越的な立場にあるサイトの運営側が一方的に規約を変更し手数料を引き上げる行為などは独占禁止法違反のおそれがあると指摘しています。

こうした中、楽天が運営する日本最大級の通販サイト「楽天市場」のおよそ200の出店者らが、先月、「楽天ユニオン」という組合を設立しました。

楽天はこれまで商品の送料について出店者の独自の判断に任せていましたが、ことし8月、購入額が3980円以上の場合には、沖縄や離島などを除いて送料を一律で無料にするサービスを始めると発表し、出店者からは「送料の負担額が増えて経営が圧迫される」などという不満の声が相次いでいました。

このため「楽天ユニオン」は送料の一律無料化などに対抗するためホームページでの情報の発信や、署名活動などを行うほか、今後、楽天との団体交渉権を得るため法律に基づく組合としての組織の設立を目指すということです。

「楽天ユニオン」の勝又勇輝代表は「これまで、一方的に規約を変更されても、楽天市場から退店させられてしまうのを恐れて声を上げにくい状況だった。送料が一律に無料化されれば商品の価格に転嫁せざるを得なくなり最終的にはお客さんにしわ寄せがいってしまう」と話しています。

一方、楽天は「実施する施策については、さまざまな観点から検討を行っており、法令順守に努めております。今後も出店者の個別のご意見に真摯(しんし)に耳を傾けより魅力的な楽天市場の運営に役立ててまいります」とコメントしています。

出店者「規約変更は厳しい」
通販サイトで輸入雑貨を販売している近畿地方の男性は「楽天市場」や「アマゾン」など4つのサイトに出店していますが、中でも「楽天市場」は利用者が多く、月の売り上げの半分を依存する重要な出店先だということです。

しかし楽天が新たなサービスを提供するなどとして決済システムなど規約を変更するケースが多く、出店者側の負担が大きくなっているとしていて、送料の一律無料化が導入されれば商品の価格に上乗せせざるをえないと訴えています。

男性は、「楽天は規約を毎月のように変更するため何千点という商品を出している店側にとっては、変更に対応するための作業量が大きくコストもかかる。しかし楽天は圧倒的な集客力を誇っているので店側は要求を飲まざるをえないのが実情だ。楽天としては規約の変更で多少不満を持たれても出店したい業者は次から次へと沸いてくる。末端の店舗はボウフラのような存在で『嫌なところは辞めたらいいよ』というスタンスなのではないか」と話しています。

そのうえで「これまでは優越的な立場にある楽天にはなかなか声を上げられなかったが、組合ができて、楽天と交渉ができるようになれば、店側も利益を確保できるし、消費者にとっても価格、サービスの両面でメリットがあると思う。対等な関係で話ができるというのは必要なことで、ネット通販の業界全体がいい方向に向かうのではないか」と話しています。
「楽天ユニオン」の要求は? 「楽天ユニオン」の要求は?
「楽天ユニオン」は、先月、「楽天市場」のおよそ200の出店者らが参加して設立した任意団体です。

楽天はこれまで商品の送料について出店者の独自の判断に任せていましたが、ことし8月、購入額が3980円以上の場合には、沖縄や離島を除いて送料を一律で無料にするサービスを始めると発表しました。

これについて「楽天ユニオン」はプラットフォーマーの優越的な立場を利用した一方的な規約変更で送料は全額、出店者の負担になるとして撤回するよう訴えています。

またおととし導入した「楽天ペイ」と呼ばれる新たな決済システムや、楽天が決めたルールに違反し一定の違反の点数になると強制的に売上金から罰金が差し引かれる制度を導入したことについても、独占禁止法に違反する一方的な規約変更で出店者側が不利益を受けていると主張し楽天側に改善を求めていくとしています。
公取委が示した違反事例は? 公取委が示した違反事例は?
公正取引委員会は先月、プラットフォーマーと呼ばれる巨大IT企業に対する実態調査の報告書を公表し、運営する通販サイトなどで独占禁止法に違反するおそれがある行為の具体例を初めて示しました。

報告書によりますと、優越的な立場にあるサイトの運営側が一方的に規約を変更して、手数料を引き上げたり、特定の決済方法の導入を強制したりすることや、悪質な返品や返金の受け入れを強制すること、ほかのサイトよりも安い価格で商品を出品するように求めること、ほかのプラットフォームの利用を制限することなどの行為について独占禁止法に違反するおそれがあると指摘しています。

公正取引委員会は通販サイトやアプリストアを運営する企業や出店者など合わせて93社に聞き取り調査を行いましたが、出店者からは「運営側の一方的な規約変更で販売手数料が引き上げられた」などという意見が寄せられたということです。

これに対しサイトの運営側は「手数料の引き上げはサービスの向上に必要だ」などと反論したということです。

このほか公正取引委員会がことし2月から3月に実施した通販サイトの出店者へのアンケートでは、「規約を一方的に変更された」と指摘する回答は「楽天市場」が93.2%、「アマゾン」が72.8%、「ヤフーショッピング」が49.9%に上っていました。

政府は巨大IT企業が独占的な力を強めていると指摘される中、競争が激化するデジタル市場での取り引きの透明性を確保するため、一定のルールを設ける検討を進めていて、必要な法案を来年の通常国会に提出する方針です。
過去の問題ケースは
プラットフォーマーと呼ばれる巨大IT企業を巡ってはこれまでにも取引先に無理な契約を押しつけるケースが相次いで明らかになっています。

3年前、「アマゾンジャパン」が自社の通販サイトに出店する業者に対して、ほかの通販サイトより商品の価格を高くしないことや品ぞろえを豊富にするよう求めていたとして、公正取引委員会から独占禁止法違反の疑いで立ち入り検査を受け、およそ1年後にその契約の条件を撤廃しました。

「アマゾンジャパン」はことし、利用者に購入額の1%以上のポイントを必ず付ける計画を打ち出しましたが、その原資を出店者に負担させることが再び問題となり、撤回に追い込まれました。

また、「楽天」はことし4月、運営する旅行予約サイト「楽天トラベル」で宿泊プランの価格がほかのサイトより高くならないようホテルなどに要求していたとして公正取引委員会から独占禁止法違反の疑いで立ち入り検査を受け、違反の疑いがあるとされた契約条項を削除しました。

このほか、世界最大手の「民泊」紹介サイトを運営しているアメリカの「エアビーアンドビー」は、おととし公正取引委員会の調査を受け、国内の民泊代行業者にほかのサイトに情報を掲載しないよう求めていた契約条件を見直しています。
楽天「真摯に耳傾ける」
「楽天」は、出店者が組合を設立し送料無料化の導入などについて「一方的な規約変更だ」と訴えていることについて、「EC市場のさらなる成長を実現していくためさまざまな施策を展開しています。実施する施策については、さまざまな観点から検討を行っており、法令順守に努めております。また、各種規約、利用料などの変更にあたっては、変更の内容に応じ、出店者に対応いただけるよう一定の期間を設け、周知、説明を図っております」とコメントしています。

そのうえで「今後も引き続き出店者との対話を重ねていくとともに、幅広く出店者の個別のご意見に真摯に耳を傾けより魅力的な『楽天市場』の運営に役立ててまいります」としています。
専門家「取り引きの透明化を」 専門家「取り引きの透明化を」
独占禁止法に詳しい早稲田大学法学学術院の土田和博教授は「楽天市場は国内1、2位を争うオンラインモールで出店者の依存度は高く、楽天が出店者に対して優越的な立場にいるという要件は満たすのではないか。送料無料化によって購入者が増え売り上げの増加も期待できるが一方的に規約が変更されれば出店者にとっては送料の負担が増えるため独占禁止法違反の優越的地位の乱用にあたる可能性がある。プラットフォーマーは取り引きの透明化に積極的に対応すべきだ」と指摘しています。

そのうえで「規約や手数料の改正、出店や出品の審査基準などをめぐり、プラットフォーマーへの不満が出店者側にたまっていたことが組合設立の伏線になっていると思う。通販サイトに出店する個人事業主やフリーランス、クラウドワーカーが増えるなか横につながって取り引き条件を交渉していこうという動きは今後増えるのではないか」と話しています。
 

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