「年収1400万円は低所得」 人材流出、高まるリスク 安いニッポン(下)
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2019/12/12 2:00日本経済新聞 電子版
〔写真〕日本のIT大手で働く香港出身の楊さん(左)は「給料は香港の方が高い」と話す(東京・新宿)
「日本って給料安いんじゃない?」。昨春からジャスダック上場のソフトウエア開発会社で働く香港出身の楊燕茹さん。日本行きを相談した時の両親の心配そうな顔が忘れられない。米国でシステムエンジニアとして働く弟の給料は楊さんの4倍だ。
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「物価が安いし、何よりウェブデザイナーとして学ぶことは多い」。楊さんは気に留めないが、米系人事コンサル大手、マーサー日本法人の白井正人執行役員は言い切る。「失われた30年を経て、日本は給料が低い国になってしまった」
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■「憧れの出稼ぎ先」今は昔
かつて新興国の人々が「出稼ぎ先」として憧れた日本。その地盤沈下はデータが物語る。
マーサーが世界129カ国と中国19都市を対象に実施する「総報酬サーベイ」を基に、2007〜17年の報酬を分析してみよう。システム開発マネジャーの場合、07年を100とすると17年の年収は日本は99と微減。一方、ベトナムは145、中国・上海は176、タイは210に達した。
新興国は経済発展で報酬が伸びた面もあるが、先進国でも米国は119、ドイツは107に増えた。実額ベースではどうか。17年の報酬中央値は日本が約10万ドル(1090万円)。シンガポールや中国・北京より安く、タイも7割近い水準に迫る。
■「安い日本人」世界で人気
「安い日本人」は世界で人気だ。「日本にいるエンジニアに払う費用は、感覚的にはシリコンバレーの半分だ」。米カリフォルニア州にあるIT関連スタートアップ企業の経営者は、スキルや納期への意識も高い日本のエンジニアの採用を増やしている。
半面、自動運転や人工知能(AI)など高度人材が必要な分野で日本が空洞化するリスクは日増しに強まる。
■高度人材、香港は給与2倍
英系人材サービスのヘイズ・スペシャリスト・リクルートメント・ジャパン(東京・港)によると、サイバーセキュリティーのコンサルタントの最高給与額(18年)は日本が1300万円なのに対し、香港は2480万円、シンガポールも1970万円だ。同社幹部は「日本から高いスキルを持った人材が流出する可能性がある」と指摘する。
年収1千万円は低所得層――。米住宅都市開発省の調査では、サンフランシスコで年収1400万円の4人家族を「低所得者」に分類した。厚生労働省によると日本の17年の世帯年収の平均は約550万円、1千万円を超える世帯は10%強に過ぎない。
■賃金見直しも速度遅く
日本の賃金体系には変化の兆しもみられる。富士通やNTTデータは先端分野で高い能力を持つ人に数千万円の年収を用意するなど、危機感を強める。ただ、変化のスピードは鈍い。多くの企業で年功賃金は色濃く残り、労働組合が一律の賃上げにこだわる姿は変わらない。マーサーの白井氏は「雇用のあり方自体を変えないといけない」と構造改革の必要性を訴える。
製造業がけん引する20世紀型資本主義の時代、日本型雇用は、誰しもが豊かになる枠組みとして確かに機能した。だが、デジタル革命が世界を揺らす21世紀型資本主義の時代、世界の潮流から取り残される懸念が強い。発想の転換と新たな戦略が必要な局面だ。
(中藤玲、井上孝之、花田亮輔、橋本剛志、佐伯太朗)