「忘年会幹事が苦痛」23歳新卒社員が退職願
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2019/12/14(土) 9:30配信 毎日新聞
「忘年会幹事が苦痛」23歳新卒社員が退職願
=Getty Images
忘年会のシーズンです。その年の新卒社員が幹事をするのが通例のある会社で退職騒動が起き、経営者は頭を悩ませています。どういうことでしょうか。特定社会保険労務士の井寄奈美さんが事例をもとに報告します。【毎日新聞経済プレミア】
◇忘年会 幹事の新人が退職願
A郎さん(50)は、従業員数約100人の製造会社の経営者です。同社は、その年の新卒社員が忘年会の幹事をすることが通例です。しかし今年は、幹事の新卒社員B太さん(23)が準備を進めているさなかに退職を申し出る事態となり、A郎さんは驚きました。ずっと続けてきた忘年会のやり方を変更すべきかどうか、悩んでいます。
◇忘年会は盛大な社内行事
A郎さんの会社は先代の父のときから、毎年2〜3人の新卒採用を続けています。同社では年3回、社員同士の交流と慰労のために新入社員歓迎会、暑気払い、忘年会を会社主催で行っており、忘年会は新卒社員が幹事をします。幹事は管理部の担当者と予算などを話し合い、必要であれば他の社員にサポートを頼んでいました。
忘年会はもっとも盛大な社内行事です。売り上げや納品率、業務効率化、環境整備など部署ごとの目標達成に対する社長賞の授与が忘年会前の経営発表会であります。忘年会では、社員が選んだMVP(気配り賞、みだしなみ賞、癒やし賞、頼れる上司賞など)の表彰を行います。
幹事になった新卒社員の中には、その立場を生かして自分の力をアピールし、希望の部署への配属をかなえようとする人もいました。同社は、新卒社員の1年目を見習い期間としてさまざまな部署を経験させ、翌年4月に正式配属します。忘年会幹事の根回しや段取り、調整のスキルなど通常業務ではわからない一面を知る機会でした。
◇突発的に「退職したい」
今年の新卒社員のB太さんは入社前の内定の段階で忘年会に呼ばれ、その際「来年は幹事をする」と聞かされていました。しかし、もともとチームで先頭に立って仕切るのが苦手です。幹事のことを聞かされ内定を辞退しようかと考えたほどでした。ただ、やっと決まった就職先で、両親からも説得されて入社を決意しました。また、新卒社員は自分を含めて3人だったので「なんとかなるだろう」と考えました。
しかし、1人は入社式に来ず、もう1人も入社2カ月で辞めてしまいました。1人で幹事をすることになったB太さんは、夏休みが明けたころから上司に「忘年会の幹事がんばれよ」とたびたび言われました。B太さんが「どうすれば皆に楽しんでもらえるでしょうか」と聞いても、上司は「昔はよかったけど、ここ数年は幹事のやる気が感じられない」といった愚痴を言うばかりでした。昨年幹事の先輩社員に聞くと「何をやっても年寄り連中から文句を言われるから適当でいいよ」と言われました。
B太さんは年末が近づくにつれて憂鬱になっていきました。管理部の担当者にサポートしてもらい、候補の店を探して先輩社員に意見を聞きましたが決めきれないうちに店の予約が埋まってしまうといったことが続きました。忘年会のことで頭がいっぱいで仕事にも集中できません。「この場から逃げたい」という思いが募り、管理部との打ち合わせのときに管理部長に対して突発的に「退職したい」と申し出ました。
管理部長からB太さんの様子について報告を受けたA郎さんは、B太さんを幹事から外し、「退職については考え直すように」と引き留めていますが、今後どうすべきか悩んでいます。
◇会社行事への従業員の意識が変化
会社行事の運営の仕方について考えます。これまで忘年会などは、普段の業務から離れて社員たちが交流できる場と捉えられてきました。しかし最近は、プライベートと仕事を切り離し、終業後は会社の人との積極的な交流を避ける人も増えているようです。
シチズン時計の意識調査(2019年11月20日発表)によると、ビジネスの忘年会は「1回」が望ましいとした人が52.0%で、「0回」の人も36.3%でした。また1次会の適当な時間は「2時間」とした人が52.3%で、「30分以内」と答えた人も14.8%いました。
最近はハラスメントへの意識も高まっています。お酒の場は、人格を侵害するような発言などのパワーハラスメントや、性的な会話、体の接触、お酌の強要、プライベートをしつこく聞くなどのセクシュアルハラスメントが起こりやすい場として敬遠する人も増えているようです。
経営者が忘年会などを「従業員の交流や慰労のため」と考えていても、従業員の中には苦痛とはいわないまでも「慰労にはならない」と感じる人がいるかもしれません。事例のA郎さんは、幹事を経験した若手社員や管理部の担当者から意見を聞くなどして、今後のやり方を考え直すのも一つの方法でしょう。
会社が、新入社員の力を発揮できる場として忘年会の幹事を任せるのは決して悪いことではありませんが、現在は個人の価値観が多様化しています。「1年目は必ず幹事をする」という状況が敬遠されることもあるでしょう。「サポートに回る」など別の選択肢も準備できるはずです。
会社ごとに伝統や考え方があり、答えは一つではありません。ただし、これまでのやり方を続けることで、会社の将来を担う人材を失ってしまうのであれば別の方法を探すべきです。そうした時代になっていると考えるとよいでしょう。