雇用700万人増、格差は戦後最悪 トランプ政権3年
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2020/1/20 0:00 日本経済新聞
トランプ政権下で米経済は拡大局面が過去最長の11年目に突入したが…(13日、ワシントン)=AP
【ワシントン=河浪武史】トランプ米政権が発足して20日で3年がたつ。11月の大統領選の再選シナリオを左右する経済指標を点検すると、大型減税などが奏功して就業者数は700万人増え、失業率も50年ぶりの低水準まで下がった。ただ、所得格差は戦後最悪で、若年層を中心に将来不安が強まる。中国との貿易戦争で中西部では雇用が弱含んでおり、大統領選を占うには激戦州の景気を注視する必要がある。
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トランプ政権下で米経済は拡大局面が過去最長の11年目に突入した。トランプ氏は「大型減税と規制緩和で株価は何度も最高値を更新している」と自賛。国際通貨基金(IMF)の予測では、2020年も2%台の成長率を維持する見通しだ。米連邦準備理事会(FRB)の3回の利下げもあって、米景気の失速懸念は和らいでいる。
歴代大統領の再選シナリオを左右してきたのは雇用情勢だ。トランプ政権下では3年間で雇用を700万人分積み増した。失業率も3.5%と50年ぶりの水準まで低下し、英フィナンシャル・タイムズ(FT)などの世論調査では、トランプ氏の経済政策を評価する有権者が51%と過半数だ。
過去、再選に失敗したカーター、ブッシュ(父)両元大統領は、選挙直前の1年間に失業率が1.6ポイント、0.4ポイントそれぞれ悪化。雇用の下振れが敗北の要因となった。2期8年の任期を全うしたオバマ氏、ブッシュ(子)氏、クリントン氏らは、選挙直前1年間の失業率がそろって改善し、再選の追い風となった。
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足元の懸案は所得格差だ。減税効果によって上位5%にあたる高所得層の収入は2年で6%増えたが、中間層、低所得層は2%台にとどまる。低金利政策で主要都市の住宅価格も2年で7%上昇。低中所得層は「マイホーム」に手が届かない。上位1%が全米の所得全体の2割を独占し、格差は戦後最悪だ。
そのため、11月の大統領選で「打倒トランプ」を目指す野党・民主党は、左派を中心に格差是正策を目玉に据える。富裕層や大企業の税負担を高める一方、学資ローンを全額免除するなど極端な高福祉政策で所得格差への不満を吸い上げる。
自ら仕掛けた貿易戦争もいまや逆風だ。2016年の選挙で「トランプ旋風」を呼んだ中西部では、製造業の雇用者数が減少に転じている。トランプ氏が慌てて中国と「休戦」に動いたのは、中西部の景気悪化を恐れたためだ。トランプ氏がミシガン州やウィスコンシン州など激戦州を制したのは「中国製品に45%の関税を課す」などと対中強攻策が受け入れられたためだ。トランプ氏は中国への輸出拡大策をとりまとめて「選挙公約を実現した」と誇るが、中西部の雇用が再び上向くかが再選の大きな鍵となる。
長期的な経済活性化プランも欠けている。潜在成長率は2%弱と戦後最低の水準から脱しない。移民も制限し始めたが、米国は起業家の28%が移民出身。開業率は緩やかに低下しており、米経済の「老い」につながる。
目先の活況を生んだ大型減税と歳出拡大で、財政赤字も年1兆ドルに悪化した。連邦政府の利払い費は25年には7240億ドルに膨らんで、国防費すら上回る異例の規模になる。米国内の投資マネーの外国頼みが一段と強まるが、トランプ政権はいまだに「米国第一」だ。世界の米国離れにつながれば、米経済の生命線をたたれかねない。