少なすぎる残業に要注意! 組織を崩壊させる「粉飾残業」のあきれた言い訳と手口 (1/23)

少なすぎる残業に要注意! 組織を崩壊させる「粉飾残業」のあきれた言い訳と手口
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2020/01/23 08:10 msn

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© ITmedia ビジネスオンライン 人がいないはずのオフィスで働く人が(画像はイメージ、出所:ゲッティイメージズ)
「これは、マズイな……」
PCの画面に目を向けている管理部長の顔から、どんどん血の気が引いていく。反対に、私のすぐ隣にいる社長は、頬から耳にまで血がのぼり、赤らめている。管理部の部屋に怒号が響き渡るかと思った。しかし社長は両手で頬をぴしゃりぴしゃりとたたきながら出ていった。気持ちを落ち着けるためだろう。
私と管理部長は、長い溜息をついた。「やっぱり、過少申告していましたね」と私が言うと、管理部長も無言でうなずいた。私は、こうした残業時間の過少申告を「粉飾残業」と呼んでいる。
2019年4月から働き方改革関連法が施行され、最大の目玉ともいえる「残業上限規制」の新ルール適用がスタートした(大企業のみ対象。中小企業は20年4月から)。最大の特徴は、違反すれば罰則(事業主に30万円以下の罰金または6カ月以下の懲役が科せられる可能性)が付いてくることだ。これまでは、違反しても行政指導のみだった。
このような「厳罰化」がなされたのにもかかわらず、危機感が現場には浸透していないように思う。
●残業「ゼロ」のはずが実態は……
粉飾残業のタレコミがあったのは、数カ月前のことだ。「飲み会の帰りにオフィスへ寄ったら、情シスのメンバーが10人ほど残って仕事をしていた。午後10時を過ぎていた」というようなことを、若手営業社員が社長に話したのだ。それを聞いた社長は、すぐさま私に連絡をしてきた。
「情シスの連中って、たしか残業30時間内におさまってましたよね」
「残業時間を粉飾しているかもしれません。任せてください」
私は部下に連絡を入れ、別の日にオフィスを訪ねさせた。時刻は午後9時ごろ。すると、その日も7人ほどが残って仕事をしていたという。昼間にしか現れない外部のコンサルタントが、突然、午後9時過ぎに現れた。オフィスにいた人たちは不思議に思ったようだが、普通にあいさつをするだけで、かまわず仕事を続けたという。
翌日、私と社長が管理本部へ足を踏み入れ、管理部長のPCから、夜遅くまで残っていた人たちを特定し、勤怠データをチェックした。すると、昨夜の残業時間は、なんと全員がほぼ「ゼロ」。それどころか、ここ2週間ずっと、ほとんど残業ゼロになっていたことが判明した。
オフィスに残っていたにもかかわらず、残業時間を勤怠管理システムに入力せず、虚偽のデータを入力し、報告していた――。すなわち「粉飾残業」である。
管理部長が真っ青になったのも、理解できる。これまで私たちに、従業員の時間外労働は法定時間内におさまっていると、ずっと報告してきたのが、管理部長本人だったからだ。
●粉飾残業のあきれた言い訳
管理部長は、社長が退室してから、「あっさりと、現場に裏切られましたな」とつぶやいた。どこか自虐気味だった。
この会社は、PCの起動時刻、シャットダウン時刻を労働時間として記録している。しかし、何らかの事情があれば、それを理由にPCを起動している時間を労働時間に含めなくてもいいことにしている。部下が目撃した情シスのメンバーたちの勤怠データを見てみると、多くの日で午後10時過ぎにシャットダウンしているにもかかわらず、定時の午後6時ごろに仕事が終わっていると報告していた。シャットダウンした時間以降については、「自己研鑽(けんさん)」とメモに記されている。
「自己研鑽って、なんだ?」と管理部長がまたつぶやいた。私はスルーした。そんなメモなど、ウソ偽りに決まっているからだ。2週間をさかのぼると、次のような記録が残っている。ザっと見ただけで、入力者の不真面目さが分かる。
月)労働時間 9:00〜19:00 PC使用時間 8:42〜21:09 メモ 18時以降、自己研鑽
火)労働時間 9:00〜18:00 PC使用時間 8:49〜20:46 メモ 18時以降、自己研鑽
水)労働時間 9:00〜19:00 PC使用時間 8:41〜21:53 メモ 18時以降、自己研鑽
木)労働時間 9:00〜19:00 PC使用時間 8:34〜22:11 メモ 18時以降、自己研鑽
金)労働時間 9:00〜19:00 PC使用時間 8:42〜19:22 メモ 
土)
日)
月)労働時間 9:00〜19:00 PC使用時間 8:29〜21:11 メモ 18時以降、自己研鑽
火)労働時間 9:00〜19:00 PC使用時間 8:43〜22:31 メモ 18時以降、自己研鑽
水)労働時間 9:00〜18:00 PC使用時間 8:48〜18:35 メモ 
木)労働時間 9:00〜19:00 PC使用時間 8:41〜23:49 メモ シャットダウン忘れ
金)労働時間 9:00〜19:00 PC使用時間 8:33〜20:22 メモ 18時以降、自己研鑽
土)
日)
(※編集部注:実際のデータとは異なります)
過去2週間で、定時の午後6時ごろにPCをシャットダウンしたのが、たったの1回しかない。それ以外は、定時後にPCを使って自己研鑽をしていたようだが、それは事実なのか。しかも、その自己研鑽の時間は、多くが数時間を確保している。事実であるとしたら、どんな自己研鑽を数時間もやっていたのか。
そして午前0時近くにシャットダウンしたときだけ、「シャットダウン忘れ」とあるが、これは家にPCを持ち帰って残業をしていただけではないのか。調べてみると、この日は午後9時過ぎにオフィスが施錠されていたので、恐らくそうに違いない。
「それにしても、ずさんですね」と私は言わざるを得なかった。モラルハザードしかけていると言っていい。この会社の社長は、19年の4月から「法令順守の経営を貫くために、不退転の決意でやる」と言い、私たち外部コンサルタントを招き入れた。その際、この管理部長も「残業削減、絶対達成させます」と宣言していた。にもかかわらず、この体たらくだ。
「上司である、情シスの部長や課長も同罪ですね。ほとんどマネジメントしていないでしょう?」と問いかけても、管理部長は額の汗を拭くだけで、答えない。現場からの申告を妄信していた自分を恥じているようだ。妄信であればまだいい。ここまで労働時間の記録がおかしいと、遅くとも午後7時にはタイムカードを切らせ、以降は残業時間と記録させずに業務をさせていた可能性すらうたがってしまう。
●「粉飾残業上級者」の手口とは
ノートPCやタブレットなど、モビリティにすぐれた端末がこれだけ普及すると、オフィスという「箱」を基準にして、労働か労働でないかを判別することは難しい。オフィスの外で(例えば家やカフェに持ち帰って)仕事をする人が、非常に増えているからだ。
だからこの会社でもPCを起動している時間を目安にしたわけだが、「粉飾残業」の上級者はPCを使わずに仕事をする。
例えば、ノートだ。PCを使うとログが残ってしまうので、あえてアナログな「粉飾残業専用ノート」をつくり、作成しようとしていた資料のアイデア、お客さまの要件、返信するメールの文面などを事前に書いておくのである。
そのノートを使い、部下と時間外や休日にカフェで落ち合ってミーティングをするケースもある。こうすれば時間外労働や休日出勤の記録が残らない。「うちの主人が週末に、よく部下の方々を呼び出してミーティングしています」という、ご家族からの何気ない一言で粉飾残業が発覚したケースも過去にあった。
粉飾残業は粉飾決算と異なり、当事者の罪の意識が低い。それどころか、会社のために一所懸命に仕事をやっているのだから何が悪い、という開き直る社員さえいる。だからこそ、根が深い問題ともいえるだろう。
●粉飾残業は組織を崩壊させる
所定時間内に終わらないのであれば、残業せざるを得ないときもあるはずだ。問題なのは、虚偽の報告をすることである。正直に報告すると都合が悪いので、問題がないように報告データを粉飾するという行為がダメなのだ。
教科書的に言うと、「問題」とは、「あるべき姿と現状とのギャップ」を指す。従って、現場が正しくデータを入力しないと、正確に現状とのギャップを経営者がつかむことができず、組織の問題を正しく把握できなくなる。だから、現状データの改ざんは罪深いのである。
では、どうすればいいのか。地道に啓蒙活動を繰り返し、社員に意識を変えてもらうしかない。だから、この会社の社長が「こうなったら、PCを強制シャットダウンさせましょう。それに警備会社と契約して、時間が来たらオフィスを施錠します」と言ってきたときも、私は「いったん落ち着きましょう」と返した。
確かに、ある一定の時刻になったら、PCを強制シャットダウンする会社もある。残業削減のために警備会社と契約する会社もある。ICタグを社員証につけ、出退勤管理して残業削減に成功した例もある。
残業抑制システムを販売する会社から、事業提携を呼びかけられたこともある。しかし、私は前向きになれなかった。なぜなら、あまりにも仕組みに頼ると、管理ではなく「監視」になってしまうからだ。これだけは、やめてほしい。ガチガチに仕組みで組織を統制しようとすると、自立型人財が育たないという大きな副作用が出る。
●過度な「監視」は禁物
監視がエスカレートすると、社員は反発する。頭では理解できても、感情が先に出てしまうからだ。すると、監視の「穴」を探そうとする者も出てくるだろう。物理的にシャットアウトすると、ジタハラ(時短ハラスメント)につながることもあって、こうなると、もういたちごっこだ。
繰り返しになるが、組織改革は個人個人の意識を変える努力がなければ、成し遂げられない。このプロセスを飛ばして、強硬策をとるべきではない。そもそも、なぜ人は粉飾しようとするのか? その心理を理解することから、始めていこう。
「粉飾決算」も「粉飾残業」も同じ。粉飾する人が、「思考停止」状態になっていることが、問題だ。さらに、会社側が強硬な姿勢をとると、組織全体が「思考停止」になってしまう恐れがある。これが怖い。
「風邪は万病のもと」とも言われる。工夫せず、一度安易な抜け道を探そうとすると、このような思考はクセになる。組織のあちこちにほころびが出はじめ、モラルハザードへと一直線なのだ。
●残業削減は「業務改善」ではなく「組織改革」
私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントだ。これまでにいただくオファーの大半は「本業による売上目標の達成」を支援することだった。ところがこの1〜2年で、残業削減の支援も大幅に増えた。
当然だろう。売上や利益目標を達成できなくても「違法」にならないが、規制上限をオーバーした残業は「違法」になる。経営者の本気度はマックスだ。このような本気の経営者と現場支援に当たってきた。そんな立場だから、言えることがある。
それは、多くの人が想像している以上に、残業削減は難易度が高い、ということだ。甘く見ていると足をすくわれる。なぜなら、残業削減は「業務改善」ではなく「組織改革」だからだ。
組織風土は、人間の思考パターンそのものの集積だと私は考えている。そして、思考パターンは過去の体験の「インパクト×回数」でできている。だからこそ、そう簡単に変えられるようなものではない。ことベテランであるほど、現状維持バイアスがかかってしまう。
ゆえに、地道なケアや、組織と従業員に合わせたアレンジメントが必要なのだ。
●たかが残業、されど残業
たかが残業、されど残業である。残業時間を見込んでビジネスをしているような企業であれば、働き方改革など、百害あって一利なしかもしれない。しかし、もう、この流れは止められない。これを機会に、経営陣のみならず、企業全体でビジネスそのものを真剣に見直していく必要がある。労働時間を減らしても成果を維持、あるいはアップさせるには、時間単位の単価を上げるしか道はない。
そのためには、どんなビジネスをすべきか。現業に、どのような付加価値をつけたら、お客さまはより多くのお金を支払ってくれるか。この工夫の連続が、企業を成長させ、そして日本を発展させる原動力になる。働き方改革は、そのためのチャンスと捉えることが大事だ。
私の周りでも、働き方改革法に疑問を投げかける人が大勢いるが、日本企業の真価が試されていると受け止めよう。思考停止させている場合ではない。ピンチをチャンスに変える努力をつづけることが、何よりも大事なことなのだ。
(横山 信弘) 

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