森岡孝二「トヨタにQCの残業代支払いを迫った判決について」

5月22日の本欄に、江口裕之氏がトヨタのQCに対する残業代支給報道について、当の労使への皮肉を込めて書いています。私は拙稿「労働時間のコンプライアンス実態とサービス残業」(関西大学経済・政治研究所『研究双書』第147冊「ビジネスエシックスの新展開」2008年3月)で、トヨタに今回の発表を迫った名古屋地裁判決に触れておいたので、ご参考までにここに関連箇所を引用しておきます。文体と表現は一部変えています。

トヨタ自動車堤工場(愛知県豊田市)で働いていた内野健一さん(当時30歳)は、過重労働が続いたあげく、2002年2月9日午前4時20分ごろ、職場で倒れて帰らぬ人となりました。2005年7月、妻の博子さんが原告となって、夫の死を過重労働による労災と認めなかったのは違法だとして、豊田労働基準監督署長を相手取り、処分取り消し訴訟を起こしました。その判決が、2007年11月30日、名古屋地裁でありました。

争点はQCサークル活動(労働者の「自主活動」の名のもとに行われる品質管理と能率向上のための職場の小集団活動)を業務と認めるかどうかにありました。健一さんの行なった小集団活動には、QCサークル活動のほかに、創意くふう提案、EX会活動(EXはエキスパートの略で、班長に相当する職制)、交通安全活動がありましたが、判決はこれらの活動について次のように判断しています。

「創意くふう提案及びQCサークル活動は、本来事業主(トヨタ)の事業活動に直接役立つものであり、また、交通安全活動もその運営上の利点があるものとして、いずれも本件事業主(トヨタ)が育成・支援するものと推認され、これにかかわる作業は、労災認定の業務起因性を判断する際には、使用者の支配下における業務であると判断するのが相当である。EX会の活動については、これも本件事業主の事業活動に資する面があり、……その組織が会社組織と複合する関係にあることなどを考慮すると、……その実施・運営に必要な準備を会社内で行う行為については上記と同様に業務であると判断するのが相当である」。

判決は、こうした理由で、死亡直前の1か月の残業を45時間35分とした労基署の判断をしりぞけ、QCサークル活動などを「使用者の支配下における業務」と認めて、残業時間を106時間45分とし、健一さんの死を、過重な業務に起因する死、つまり過労死と認定しました。これまで業務とは認められなかった「自主活動」に名を借りたQCサークル活動などの職場の小集団活動を業務の一部であると認めたこの判決は、時間外にQCなどに従事させながら、それを賃金および割増賃金の支払われるべき残業と認めないことを、違法な賃金不払い残業、つまりサービス残業であって、是正されなければならない、と裁判所が判断したことを意味します。

この判決は被告である国側が控訴を断念したので確定しました。今回のトヨタのQCへの残業代支払い表明が、この判決を受けてなされたことはいうまでもありません。

 

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