朝日新聞 〈私の視点〉 増える過労死 基本法制定し、防止急げ

2012年7月14日

森岡孝二 関西大教授(企業社会論)
 
厚生労働省は6月、2011年度の「脳・心臓疾患と精神障害の労災補償状況」を発表した。過労死にかかわる脳・心臓疾患などの労災請求は、10年度の802件から898件に増えた。過労自殺にかかわる精神障害の請求は、10年度の1181件から1272件に増え、3年連続で過去最高を更新した。

過労自殺は若年化する傾向がある。08年度と11年度の請求件数(死亡以外の事案を含む)を比較すると、19歳以下は4件から13件に、20〜29歳は224件から247件にいずれも増加している。

背景には、採用抑制と厳選採用のもとで就職した新規学卒者が、十分な指導や援助のないまま「即戦力」として働かされる状況がある。IT関連の職種では、過重な業務に起因する極度の精神的ストレスからうつ病になり、自殺にいたるケースも少なくない。

労災認定された事案でみると、過労死では8割、過労自殺では7割が月平均80時間以上の時間外労働をしている。時間外が160時間を超えるケースもそれぞれ数件ある。過労死が社会問題化して四半世紀もたつのに、過労自殺をあわせると、犠牲者が増え続けている理由は、「超長時間労働」にあるのは明らかだ。

過重労働と過労死の関係については、00年3月の最高裁判決が、「長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷などが過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは、周知のところである」という判断を下している。

労働基準法では「1週40時間・1日8時間」が上限とされているが、労使で協定を結べばいくらでも残業させられるという抜け道がある。働く者の命と健康を守るには、「過労死防止基本法」を制定して過労死をなくすことを国が宣言し、過重労働対策における国・自治体・事業者の責務を明確にしなければならない。

こうした基本法を議員立法で制定する動きがすでに始まっている。昨年11月、「全国過労死を考える家族の会」と「過労死弁護団全国連絡会議」の呼びかけで、「過労死防止基本法制定実行委員会」がスタートし、6月6日の衆議院第1議院会館であった院内集会には、大会議室を埋め尽くす参加者があった。与野党の国会議員や代理の秘書合わせて54名も来場した。街頭や職場での署名はすでに24万人を超えている。

日本には、男女共同参画社会基本法など40本の基本法があるが、労働分野の基本法は1本もない。過労死防止基本法の早期の制定が強く求められている。

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