東京社説 胆管がん初認定 労災死、なぜ繰り返す

東京新聞 2013年2月21日

 印刷会社で働いていた人に胆管がんが多発している問題で、本人や遺族が請求している労災のうち、大阪のケースが初めて認定に向かう。働き盛りの命が失われた教訓をすべての企業で刻みたい。

 胆管がんは肝臓から十二指腸につながる管の部分にできるがん。日本では年間一万人以上が確認され、年齢的には七十代が多い。厚生労働省が今回初めて認定しようとしている大阪の印刷会社の十六人は、発症者が二十〜四十代に集中、発症率が通常の六百倍と異常に高い。同じように働いていた人は不安だ。胆管がんの労災請求は同じ会社から複数申請が相次ぎ、大阪、宮城などで六十二人に上る。厚労省は三月の専門家会議で認定の考え方をまとめる。大阪以外の四十六人についても判断を急ぐべきだ。

 発症者に共通するのは「ジクロロメタン」「1、2ジクロロプロパン」を含む洗浄剤を使う場所で働いていたことだ。これらの物質は動物への発がん性が指摘されている。大阪の場合は、一九九一年から地下の工場で作業が行われていた。換気装置はあったが、不十分で、蒸発した溶剤の濃度が上がる。約十年前にこの洗浄剤が使われなくなるまで、従業員は繰り返し有害物質を吸い込んでいた可能性がある。

 今回のように工場で化学物質を含む洗浄剤が使われる場合、「有機溶剤中毒予防規則」があり、換気や定期健診が義務づけられる。ジクロロメタンなど五十四の化学物質が対象になっているが、ジクロロプロパンは対象ではない。会社側は防毒マスクをつけさせていなかった。

 過去にもアスベスト被害など化学物質や環境によって職業病が数々引き起こされた。再発防止のために規制が作られ、強化されてもまた、新たな問題が起きてきた。

 胆管がんの問題は化学物質をどう管理するのかと、あらためて問う。次々に新しい化学物質が生まれる中、毒性の検査や、規制が追いついていないのが現状だ。会社は従業員の健康を守らねばならない。十分な換気やマスクという初歩的な安全対策が取られていなかったのは悔しい。

 厚労省の調査で、有機溶剤中毒予防規則の対象になる印刷会社のうち、八割で何らかの違反があった。ジクロロメタンは印刷会社だけでなく、塗料溶剤などにも使われていた。国は他の業種にまで調査対象を広げるべきだ。経営者はもう一度、安全を点検してほしい。

 

この記事を書いた人