障害者だけでなく、すべての働く人にとって良い職場環境をつくるきっかけにしたい。
雇用義務の対象となる障害者を、これまでの身体障害と知的障害から、うつ病や統合失調症などの精神障害にも広げる法案が、今国会に提出される。5年後の施行を目指す。
法定雇用率は、働いているか働く意思のある障害者が全労働者に占める割合を算出し、それと同じ水準になるよう5年に1度、見直している。
現在は1・8%で、4月には15年ぶりに改定され、2%へ引き上げられる。
これに対し、民間企業の実雇用率は昨年で1・69%。半数以上の会社は1・8%をクリアしていない。
対象は、障害者手帳を持つ人だ。すでに雇われている人も手帳を取得すれば算入される。
精神障害も対象になると、法定雇用率はさらに引き上げられる。企業にとって、精神障害者の雇用にも目を配らなければ、法定雇用率を達成するのは難しくなろう。
ただ、精神障害の場合、見た目には障害がわからず、本人も偏見を恐れて、周囲に障害を知られたくない気持ちが強い。このため、厚生労働省の審議会も「本人の意に反し、障害者手帳の取得が強要されることがないように」とくぎをさす。
精神障害を抱える人は、職場でのコミュニケーションに難しさを抱え、もともと緊張やストレスに弱く心身がつかれやすいため、いちど調子を崩すと休みがちになる。
それが精神障害者の雇用の壁になっているといわれる。
新たな雇用でも、発病した後の継続雇用でも、周囲のきめ細かい支援がカギを握る。
例えば、60人の精神障害者を雇用するスーパー「いなげや」グループでは、「勤務時間や休日の曜日はできるだけ一定に」「所属長の交代時に体調を崩しやすいことに注意を」などのノウハウを社内で共有する。
障害者が健常者をサポートする例もある。67人の精神障害者が働く富士ソフト企画では、名刺印刷やウェブサイト制作などのほか、親会社であるIT関連企業で精神的にダウンした社員の復帰プログラムも担う。
つらい経験をくぐり抜けてきた障害者と一緒に2週間ほど働くと、症状が改善することが多いという。
障害者が働きやすい配慮のある会社は、健常者も働きやすいはずだ。短所で排除されず、長所を生かして働ける社会に近づけたい。