社説:新卒者の就職 冷たい春にしないよう

11毎日新聞 2013年04月01日 

 今日が入社式という企業も多いだろう。大学生や高校生の就職内定率がこの2〜3年連続して上昇し、超氷河期に薄日が差すようになった。ただ、初めから就職活動をしない学生は多く、就職後すぐに離職する人も後を絶たない。中には組織的に若い社員を退社に追い込む悪質な企業の存在も指摘されている。若い世代がよい仕事に就けなければ社会保障の土台が先細るばかりだ。中高年にとっても人ごとで済む話ではない。

 安倍政権の経済政策で業績が回復している企業はあるが、学生側の意識の変化が内定率の改善に影響しているとの見方が強い。かつては大企業ばかりに人気が集中していたが、将来性のある中小企業にも目を向けるなど現実的な学生が多くなったという。大学側は個々の学生に合ったきめ細かい就職活動の支援に努め、ハローワークも新卒者向けの相談窓口を開設して実績を上げている。

 ただ、せっかく就職しても1年未満で約1割が辞めていく。2年で約2割、3年で約3割が離職するというのが近年の傾向だ。「辛抱がきかない」「ひ弱だ」と若者を嘆く言葉はよく聞かれるが、最近は新卒者を大量に採用して厳しい研修を課し、その結果「使い物にならない」と決めつけ、離職に追い込む悪質なケースが指摘される。若くてコストの低い労働力を確保した上で、選別して早々に使い捨てるのである。

 新卒者にとっては入社後にもう一度採用試験を課されるのと同じだ。ひどい言葉で人格を否定するパワーハラスメント、本来の職務と関係のない長時間労働によって、退社してからも長く心身を病む若者が多い。会社組織を挙げて計画的に行う事実上の強制退社は若い人材の社会的損失をもたらし、労働現場をすさませるだけだ。

 企業にとっては、人件費が安く法人税も軽い新興国の企業との競争にさらされ、国内需要も伸びない中で生き残るため、やむを得ずに行っている面はあろう。ただでさえ日本の雇用規制は厳しい。従業員の解雇が認められるためにはいくつもの条件があり、内定を取り消すと社名公表というペナルティーを受ける場合もある。現在、政府が解雇規制の緩和、正社員とは賃金体系など待遇の異なる「準正社員」の創設などを検討しているのも、人件費の軽減や機動的な人材確保策を求める企業側の要望が強いからだ。

 将来的には現在の硬直した雇用制度を柔軟なものに変えていくことは避けられないが、暮らしの安心や会社への信頼がなければ働く人々の不安は募るばかりだ。従業員は企業の財産である、と若者が実感できる世の中にしなければならない。

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