大学生の就職活動の解禁時期を繰り下げる動きが進み始めた。3年生の12月から始まる就職活動が学業に支障を与えているとして、政府が経済界に働きかけ、経済界も受け入れる動きを見せているからだ。景気低迷と厳しい雇用環境を背景になかなか就職先が決まらず、就職活動が長引いて学生に過度な負担になっていると指摘されており、繰り下げは歓迎すべきだ。政府は今後具体的な中身を詰めて経済団体に正式に要請することになるが、移行期に学生が混乱しないよう政府も経済界も大学も最大限努力してほしい。
就職活動のルールは経団連の倫理憲章が定めている。就職活動の解禁にあたる企業の説明会の開始を大学3年生の12月以降とし、選考活動を4年生の4月以降としているが、政府はいずれも4カ月程度遅らせたい考えのようだ。
当初、経団連は繰り下げに慎重だった。学生が企業を研究する時間を確保するとともに、人気企業に応募が集中して人材を獲得しにくい中小企業にもある程度の選考期間が必要だと説明していた。経団連は2年前に倫理憲章を見直し、就職活動の解禁を2カ月遅らせたことから、その効果を見極めたいという考えもあった。しかし、経済同友会や日本商工会議所のトップが相次いで解禁を遅らせることに賛同し、経団連も「政府から要請があれば、会員企業に周知徹底する」と姿勢を改めた。
見直しの趣旨を企業や学生に十分理解してもらい、納得のうえでルールを変えることが必要だ。採用活動は企業にとっては競争だ。疑心暗鬼に陥り、抜け駆けする企業が続出すれば学生は混乱してしまう。政府は15年3月の卒業者への適用は難しいと考えているようだ。拙速を避けるためにはやむをえまい。
学生が不安に陥らないよう、政府や経済団体、企業は見直しについて情報公開し、周知徹底しなければならない。影響を受ける中小企業は、経済団体や自治体、大学と協力して積極的な情報提供をしたり、インターンシップの機会を提供したりすることも必要になる。
一方、学生は仕事への関心を高め、どのような就職をしたいかなど心の準備を怠りないようにしておくことが求められる。
就職活動は本来なら自由であるべきだが、決めごとがないと企業も学生も混乱してしまうため、便宜的にルールが定められた。企業は将来的には春の新卒一括採用にこだわることなく、秋採用や通年採用を組み合わせた採用の多様化をはかるべきだろう。今回の見直しをきっかけに、経済界や大学がオープンな議論を続けることが必要になる。