2017年3月28日
過労死弁護団全国連絡会議幹事長
弁護士 川人 博
1 本日決定される改革内容は、とくに下記の理由から、過労死をなくすことや長時間労働を解消することに実効性があるとは言えず、むしろ、過労死を助長する危険性が大である。
第1に、一か月100時間、平均80時間の時間外労働を事実上容認する内容は、労災認定基準のいわゆる「過労死ライン」の労働を放置することにつながるものである。
ちなみに、電通は、遺族橋幸美氏との合意書において、繁忙期でも月の法定外労働75時間を上限とする旨を約束しており、今回の政府の計画は、いま時短を進めようとしている各企業の努力にも逆行するものと言わざるを得ない。
第2に、長時間労働の典型的な業種である建設業、運送業について、長時間労働規制の対象から除外しており、これらの業種でとりわけ過労死が発生する危険性が極めて大である。これまでの過労死事例で、時間外労働が月100時間以上の事案は、建設業、運送業において とくに目立っているが、その要因は、これらの業種が大臣告示の適用除外となっていたからである。
今後とも(少なくとも5年間は)、適用除外されるということは、危険な職場状況を放置することになる。
第3に、医師の深刻な過重労働と過労死が社会問題となっているにもかかわらず、5年間にわたり、長時間労働の規制対象から外すということは、医師の命と健康に深刻な影響を与え、かつ、医療事故の原因となる。
応召義務(医師法)は、戦前以来の前近代的な内容であり、医師の過重労働を助長するものとなっており、廃止ないし改正すべき内容であり、この応召義務を理由として、医師の長時間労働を固定化すべきでない。
第4に、現在国会に上程されている、いわゆる「高度プロ」法案は、労働時間規制の例外を拡大するものであり、いままで以上に多くの労働者を長時間労働に従事させる危険性が大である。
第5に、深夜交替制勤務の過重性を考慮した労働時間規制の視点が欠落している。
看護師等に加えて、様々な業種に深夜交替制勤務が導入されている現状において、これらに従事する労働者のいのちと健康を配慮するものとなっていない。
第6に、公務員労働者の長時間労働規制の視点がなく、緊急の課題となっている教員の長時間労働を規制するための施策が示されていない。国家公務員、地方公務員の長時間労働が、民間の長時間労働を助長している側面も多く、この点での対策が示されていない。
2 過労死弁護団としては、数多くの過労死の実態を踏まえて、政府、国会に対して、 今後とも意見を述べ、問題提起をおこない、過労死をなくすためのとりくみに力を尽くしたい。 以上