過労死ラインの残業上限設定および長時間労働促進法案に断固反対します

                                                                           2017年3月28日

                                     全国過労死を考える家族の会代表世話人 寺西 笑子

 第9回「働き方改革実現会議」で残業時間の上限に関する政労使合意が示されました。それは、「月45時間、年360時間が原則」としながらも、業務の繁忙など特別の場合は、2〜6か月の複数月80時間、単月100時間、年720時間、さらに休日出勤の別枠を入れると年間960時間の残業も可能という、抜け道付きの例外規定を設け、残業時間をさらに規制緩和しようとするものです。1日の規制も1週間の規制もないため、毎日5時間、10時間という残業が続いても違法ではないという恐ろしいことなります。これでは過労死する働き方にお墨付きを与えるようなものです。このような過労死の合法化は許せません。

 そもそも時間外労働の限度に関する基準は、厚生労働省の大臣告示で月45時間、年360時間と定められています。根拠は、残業時間がこれを超えると睡眠時間が確保されなくなり、労働者の健康に支障をきたすことが証明されているからです。それなのに、月80時間から100時間、年960時間という大臣告示の倍以上の危険な働かせ方を政府はなぜ法制化するのでしょうか。これは仕事のために命を投げ出して過労死するほど働けという意味を持つものであり、過労死被災者の遺家族として断じて許せません。

 そのうえ政府は、「高度プロフェッショナル制度の創設」と「企画業務型裁量労働制の拡大」を働き方改革にセットし押し通そうとしています。「高度プロフェッショナル制度」は、一定の年収用件を満たすと「残業代ゼロ」で労働者を無制限に働かせることができる制度であって、過労死を増加させる恐れがあります。「企画業務型裁量労働制の拡大」についても、今でさえ十分にできていない労働時間の適正な把握がますます困難になる恐れがあります。わたしたちは、長時間労働を助長するこうした労基法改定に断固反対するものです。

 わたしたちの大切な家族は、長時間過重労働によりある日突然過労死しました。上司の命令により睡眠もとれないほど会社に尽くしてきたのに、過労死すると職場に緘口令が敷かれ、理由も教えてもらえず謝ってももらえません。遺された家族の悲しみと喪失感は計り知れず、遣りきれない思いでいます。過労死はまじめで責任感が強い人が被災する極めて理不尽なできごとです。何よりも志を半ばにして命を奪われた本人の無念は如何ばかりでしょうか。わたしたちは、過労死の悲劇を繰りかえさないために、過労死防止法を成立させました。成立後、国は「過労死ゼロ」をめざす「大綱」を打ち出しました。それなのに過労死ラインの残業が違法にならない制度を作ることは矛盾しています。わたしたちはどんな内容でも残業時間の上限が法制化されたら一歩前進とは全く思っていません。向かう方向が真逆です。過労死防止法は、これまで多くの命が犠牲になってできた法律であり、全国の過労死遺族の涙と汗の結晶です。

以上、過労死ラインの残業上限設定および長時間労働促進法案に断固反対します

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