マイナンバー法 踏みとどまる良識を

東京社説 2013年5月20日
 
  国民らに個人番号を付けるマイナンバー法案が衆院を通過し、参院で審議に入った。個人情報流出の危険や国民監視の強化につながる懸念がある。踏みとどまって、良識ある議論を尽くしてほしい。

 インターネット時代には、個人情報の取り扱いは、より慎重を期すべきものだ。いったん外部に流出したら、取り返しがつかないためだ。マイナンバー法が扱う個人情報は、氏名や住所など個人を特定する基本情報から、納税実績や年金・介護情報など幅広い。

 共通番号制とも呼ばれ、全国民や法人などに番号を付けて、税分野や社会保障分野の情報を結び付ける。行政庁ごとに管理された個人情報をネットワーク基盤を通じてひもづけし、データマッチングさせるので、国に一元管理されるのと同じ状態になる。
 
法案が成立すれば、二〇一五年から国民一人一人に番号が通知され、一六年から運用が始まる。だが、拙速に制度導入を決めることに賛成できない。中央官庁もハッカー攻撃を受ける時代だ。マイナンバーで国民の情報を集積することは、かえって危険である。さまざまな個人情報が番号とともに流出し、深刻なプライバシー侵害を引き起こす恐れがあるためだ。
 
運用の監督をする第三者委員会が設置されるものの、情報流出を完璧に防げるとは限らない。
 
社会保障番号を使う米国では、なりすまし犯罪が絶えず、その被害は年間に兆円単位にものぼっている。韓国でもなりすましと同時にネット上で個人情報が売買の対象にもなっているという。
 
国家が共通番号制で個人情報を管理することは、国民監視を強めることにもなる。システム構築すれば、特定人物の検索ができるからだ。税分野に限った番号制度を持つドイツで、多目的利用を禁止するのは、人を集団管理する危険性を戦時中の歴史体験として持っているからだといわれる。
 
初期投資に約二千七百億円かかり、毎年のランニングコストは約四百億円にもなる。巨大な「IT箱モノ」なのに、この制度で大幅な税収増は見込めはしない。費用対効果が不明なままで、公共事業を進めていいのか。
 
いずれ医療分野の“増築”や、民間利用も検討され始めれば、プライバシーはさらに深刻な脅威にさらされよう。利便性の裏には危険性が潜む。国民への説明も不十分なままで、法案を成立させては、将来に禍根を残す。

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