政府が成長戦略に盛り込む雇用改革で、正社員に準じた「限定正社員」を導入する議論が進んでいる。勤務地や職種を限定した正社員のイメージだが「解雇しやすい正社員」が広まらないか心配だ。
正社員は給料が高いうえ仕事の生産性が低くても解雇できない。だから非正規雇用が増える。正社員を解雇しやすくしたり、転職を後押しすれば、経済成長に結びつく−。
政府の産業競争力会議や規制改革会議の議論を要約すれば、こういうことだろう。
経済最優先、働く人より企業経営者重視の姿勢が鮮明なのである。当初は、解雇規制を緩めて企業が金銭解決で労働者を解雇できる方策を検討していた。しかし、国民や野党の反発が強く、政府・与党は参院選で不利になるのを恐れ、先送りを決めた。
残った具体策が、正社員と非正規の中間ともいえる「限定正社員」の普及である。
勤務地や職種を限定する代わりに、正社員より賃金は安い。こういった制度自体は、すでに多くの企業が取り入れているものだ。正社員は不本意な転勤や長時間の残業を拒めず、子育てや介護との両立はむずかしいので、働く側からすれば、限定正社員に一定の利点は見いだせるかもしれない。
だが、経営側は正社員と同様の雇用保障では導入するメリットは少ないため、経団連は従来の正社員よりも解雇しやすい規定を要望している。例えば、製造業が工場を閉じるような場合には、工場従業員を自動的に解雇できる、といったイメージである。要するに、正社員でありながら賃金は安く、解雇はされやすいという「悪いところ取り」になりかねない。
こうした働き方がいったん始まると、徐々に拡大していく可能性は否定できない。それは非正規労働が、今では労働者の35%にまで広まった事実から明らかである。政府は、限定正社員の就業規則のモデルを来年度以降に決める方向だが、企業にだけ都合よいルールにならないよう歯止めが必要だ。
確かに、企業に雇用調整助成金を支払って余剰人員まで抱え込ませている現状は、競争力をそいでいる面がある。必要なのは、労働力が不足している分野を成長産業に育て、転職のための教育訓練に力を入れ、労働力の移動を促していくことだ。
働く人を単にコストとしかみない経営の片棒を担ぐような成長戦略なら作らない方がましである。