http://mainichi.jp/opinion/news/20130723k0000m070122000c.html
毎日新聞 2013年07月23日
自民党の圧勝で、原発推進にお墨付きが与えられたと考える人がいるかもしれないが、誤りだ。
確かに、選挙公約で「原発ゼロ」を掲げなかったのは自民党だけだった。新規制基準をクリアした原発の再稼働を進め、地元自治体の理解が得られるよう最大限努力するという内容だ。
しかし、これまでの世論調査を見れば原発に頼らない社会を望む人が多いことは間違いない。選挙前の毎日新聞の世論調査でも、新規制基準を満たした原発について、「再稼働させるべきだと思わない」と答えた人が過半数に上った。
「原発ゼロ」「脱依存」を望む人の受け皿となるべき野党が分散したのに加え、自民党がエネルギー政策の全体像を語らなかったために、原発を巡る与野党の論争は深まらなかった。結果的に民意が集約されなかったが、東京選挙区で「脱原発」を掲げた共産党新人の吉良佳子さんや、無所属新人の山本太郎さんが当選したのは、原発ゼロを重視した人々が少なくなかったことの表れと考えられる。
しかも、自民党自体が「原発推進」を掲げているわけではない。安倍晋三首相は選挙期間中も、「原発依存度を下げたい」と述べている。連立を組む公明党も、「原発ゼロ」を掲げる。
だとすれば、これからの自民党に求められるのは、エネルギー政策の全体像を描いた上で、原発依存度をどう低下させていくのか、道筋を示すことだ。その中で、核燃料サイクルや核のゴミ処分の方針も決める必要がある。
ひとつのきっかけは、年末にまとめる予定の「エネルギー基本計画」だ。ところが、安倍政権は「3年間で再生可能エネルギーを最大限導入し、10年以内に原発比率を含めたベストミックスを示す」という姿勢を崩していない。
10年もたってから示すとすれば、それは「計画」でも「政策」でもなく、「結果」に過ぎない。まず、原発の将来的なビジョンを明らかにした上で、それにあわせて他のエネルギーの目標を示すのが筋だ。
そうしなければ、再生可能エネルギーや高効率火力、省エネに対する意欲が鈍る。「電力自由化」や「発送電分離」などのエネルギー・電力改革も進まない。これまでの原発推進政策を転換するには、一定の期間、負担が増えることを国民に納得してもらうことも必要だ。
当然のことながら、再稼働に前のめりになり、原子力規制委員会の判断に介入することは許されない。再稼働は一定のリスクと隣り合わせであることも忘れないでほしい。