毎日新聞 2013年10月22日
ひとりで子どもを育てる親の税を軽減する「寡婦(かふ)控除」を、結婚歴のある人だけでなく非婚のひとり親にも認めるよう税制を改めるべきだ。結婚歴のあるなしで差をつけるのは公平でない。
「結婚をしていないことで税の負担が重くなるのは納得できません。一人で子どもを育てる大変さは同じではないでしょうか?」
シングルマザーとして一人息子を育ててきた東京都八王子市の派遣社員女性(64)は訴える。結婚を望んでいたが相手の男性は妊娠を知ると離れていった。年収は百六十万〜三百万円で、失業した時もあった。離婚したシングルマザーのように寡婦控除を受けられていたら、所得税や公営住宅の家賃などで少なくとも年間十万円近くを負担せずにすんだという。
「寡婦控除」は夫を戦争で失い、子を抱えて困窮する女性を支えるためにできた。低所得の場合は税のほか、所得に応じて決まる公営住宅費や保育料などの減免基準にもなる。法改正を重ねて適用が広がり、子がなくても夫と死別した女性らにも認められるようになったが、唯一、法律上の結婚をしていない非婚の親だけが含まれずに残った。
これでは結婚したかどうかで社会がその人を支えるかどうかを選別することになる。税負担は支払い能力に応じて公平であるのが原則。実態はひとり親の税を軽減する制度になっていながら、非婚のひとり親だけを除くのは差別だ。非婚のひとり親家庭は母子世帯の中でも所得水準が低い傾向にある。控除を受けられないために子育ても追い詰められがちになる。
二〇〇九年、東京都新宿区、八王子市、那覇市の非婚の母三人が日弁連に人権救済を申し立て、日弁連は今年一月、寡婦控除が適用されないのは不合理で法の下の平等を定めた憲法に反すると、三市区の首長に改善を求め、国に税制改正を求める要望書を出した。
こうした地道な訴えが契機になり、今は三市区のほか、千葉市や埼玉県朝霞市などで、非婚のひとり親にも寡婦控除があったと「みなして」保育料や市営住宅の家賃などを減免している。国の制度を動かす先取りでもあるが、多くの自治体は非婚者の親の窮状を理解しつつも踏み込めず、国の方針が出るのを待っている。
子育てにかかわる問題は放置できない。一刻も早く非婚の親も含め、すべてのひとり親が寡婦控除の対象となるようにすべきだ。