毎日新聞 2013年10月31日
小泉純一郎元首相が脱原発を唱えている。社民党の吉田忠智党首とも会談した。世論を喚起し、政府にエネルギー政策の転換を促すことが狙いだ。多くの国民がうなずけるまっとうな議論でもある。
会談で小泉氏は「世論を変えることで、脱原発に向けた政治決断をさせることが必ずできると確信している」と強調、原発推進に積極的な安倍晋三首相に「お互いの立場で脱原発を訴えていこう」と語ったという。
小泉氏は折々に原発ゼロは無責任だとする経済界などに対して、「核のごみを処分するあてもないのに原発を推進するのは無責任だ」とやり返してきた。
小泉氏には原発ゼロの思いを決定づけた伏線がある。フィンランドの核廃棄物最終処分場「オンカロ」や、脱原発を宣言して風力や太陽光などの自然エネルギー先進国に躍り出たドイツの視察だ。
「最終処分場は四百メートルの岩盤をくりぬいた地下にある。十万年後まで管理できるのか」「原発ゼロを自民党が打ち出せば、自然エネルギーによる循環型社会に向けて結束できる」などとよどみない。明快、かつ説得力も併せ持つ。
オンカロは世界でただ一つ着工された最終処分場であり、原発は「トイレなきマンション」も同然だ。日本には原発が燃やした一万七千トンの使用済み燃料が原発の建屋などに積み上がっている。
放射性物質が減衰するとされる十万年もの超長期にわたり、地震国の日本で安全な保管が可能なのか。学者の間にも懐疑的な意見がある。オンカロには、小泉氏に理解を得ようと原発メーカーの担当者も同行したが、逆に脱原発志向をより強固にさせてしまう事態を招いてしまったともいわれる。
いかに原発ゼロに近づけ、自然エネルギーを基幹電源に育て上げる社会を築くのか。小泉氏は、エネルギー転換こそが日本の未来をひらくと力説もするが、民主、共産、社民、みんな、生活の党など、原発ゼロを目指す勢力との連携には否定的で「それぞれの政党が努力していくべきだ」が持論だ。
「大方の国民は賛成してくれる」とも語っている。自民党にも脱原発グループが存在する。与野党、国民が束になっての原発ゼロへの挑戦が視野にあるのかもしれない。
小泉氏は十一月十二日に東京で記者会見し、自らの脱原発論を語る。私たちも、日本のエネルギー社会のありようと、あらためて向き合う機会とすべきだ。