河北新報 2014.9.28
政府と経済界、労働団体の代表らによる「政労使会議」が、あす再開される。安倍政権が主導し1年前に設けられた会議は、経済の好循環実現に向け、企業収益の改善を通じて賃上げや雇用拡大を図り、個人消費の底上げにつなげるのが目的だ。
去年の暮れに3者が協調して賃上げに取り組むことで合意。政府の「積極介入」もあって、今年の春闘で大企業を中心にベースアップ(ベア)を含む賃上げが広がる機運をつくった。
今回再開するのは、政府が成長戦略の柱に位置付ける労働改革の具体化に向けて、労使の議論と理解を促すためだ。
ただ、労働時間の規制緩和に見られるように、議論は企業ペースで進む恐れがある。経済好循環も起点は企業収益の改善にある。だが企業のもうけが至上であり、働く人のことが二の次であっていいはずはない。
会議では、働く人が健康で、安心して職場で能力が発揮できるよう、労働条件の底上げや労働環境の改善をめぐる議論に大きく時間を割いてもらいたい。
議題の一つに挙げられるのが新成長戦略に盛り込まれた労働時間規制の見直しだ。「少なくとも年収1千万円以上」の高度な専門職の労働者を残業代支払いの対象外とし、時間に縛られない柔軟な働き方を促す。
この制度をめぐっては、厚生労働省の審議会で議論が本格化しており、経営者サイドは幅広い職種を対象にしたい考えなのに対し、労働団体は「過重労働に歯止めがかからなくなる」と猛反発し、対立が続く。
3者会議では有給休暇の取得向上などと共に、長時間労働の是正がテーマになる見通しだ。そうした観点からも制度導入の是非、過重労働の歯止め策を含めた率直な意見交換を通し、議論が深まることを期待する。
だが、再開に当たって、まず必要なのは去年暮れの3者合意の履行状況を検証することだ。
合意には「中小企業も企業収益の拡大を賃金上昇につなげていく」「非正規労働者が正規労働者に転換する道筋を積極的に広げる」ことと共に「女性の活躍の促進」も盛り込まれた。
春闘で地方の中小にまで賃上げが行き渡ったとはいえない。政府による中小支援は十分だったか。非正規労働者の処遇改善はどの程度進んだか。政権が掲げる「女性が輝く社会」の実現に向け、取り組みはどうか。
そうした点を検証し改善策を議論することで、働く人の安心を醸成する足掛かりとしたい。
むろん、賃金は安心に深く関わる。消費税増税後、物価上昇に賃金が追い付かない状況が続き個人消費は回復していない。経済好循環に向け、賃上げはいずれテーマに浮上してこよう。
今回、政府は企業に直接要請はしない方針という。当然だ。
もっとも、企業業績に響く消費低迷を前に、当の経済界から「企業側も賃上げにできるだけ努力することを話し合ってもいい」(長谷川閑史経済同友会代表幹事)との声が上がる。建設的な議論を望みたい。