潜伏期間が長い…アスベスト関連の病気や死亡例は今後増加へ (9/16)

潜伏期間が長い…アスベスト関連の病気や死亡例は今後増加へ
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2019/9/16(月) 5:00配信 幻冬舎ゴールドオンライン

戦後、大規模に整備された日本のインフラが、老朽化により崩壊の危機に直面しています。「物理的な寿命=耐用年数」について十分に議論されてこなかったため、思うように修繕が進んでいないのです。不動産投資も同じリスクを抱えており、物件の修繕、さらには解体まで想定することが重要であると、第一カッター興業株式会社で経営企画室長を務める石川達也氏は警鐘を鳴らします。本記事では、アスベストによる具体的な健康障害について見ていきます。

アスベストが原因で起こる主な5つの疾病
アスベストは、石綿関連法規によって禁止されるまでは広く使用されていました。使用が中止されて20年近く経過していることから、電気製品・自動車・家庭用品としてアスベスト含有製品が残っているケースは少なくても、建物は寿命が50年超と長いことから、現時点でも様々な場所に残っています。

アスベストの発がん性はアスベストの成分にあるのではなく、その非常に小さいという形状にあります。建材に封じ込められている状態は安定状態であり、そのまま置いておいても危険性はありません。ただ、不用意に傷つけたり壊したりすると、破壊された部分から舞い上がるホコリの中にアスベスト粒子が含まれる可能性があり、危険性が発生するのです。

石綿(アスベスト)がおこす健康障害には、主に5種類あると言われています。

1.悪性中皮腫(悪性胸膜中皮腫・悪性腹膜中皮種・悪性心膜中皮腫・精巣鞘膜中皮腫)

2.石綿(アスベスト)肺癌

3.石綿(アスベスト)肺

4.胸膜肥厚斑

5.良性石綿胸水(胸膜炎)及びびまん性胸膜肥厚

上記の病気は、アスベストを吸引してから20〜30年間は症状も病気もまったくでない人が多いという特徴を持っています。つまり、以前にアスベストを吸引した可能性があるからといって病院で様々な検査を行ったところで所見が無い、ということになるのです。そして、平均40年前後の潜伏期間を置いて発症するのが一般的です。

仕事中にアスベストを吸引する環境にあった方も、この症状の出ない潜伏期間が要因となり、在職中には所見がなく、退職後に発病するというケースが後を絶ちません。とはいうものの、発病にはかなりの個人差があり、潜伏期間10年で悪性胸膜中皮種になった方もいれば、潜伏期間70年で発病した方など、その発病タイミングはかなりの差が発生することもあります。

どの病気に関しても、アスベストの単繊維の大きさである0.02μm(1?の50,000分の1)と極めて小さな粒子を吸引することで、胸膜や腹膜に繊維が刺さり留まり続けることで、少しずつ、長期間に渡って粘膜を傷つけ続けることで、がんを引き起こす原因となるのです。

一般人でも、アスベストの「健康障害の危険」はある
アスベストの吸引蓄積量を推定することができないこと、さらに、アスベストの吸引量に応じた中皮種や肺がんの発症はリスクモデルにより100倍程度の幅で異なってくることもあり、どんな環境でどれ位アスベストを吸引したら健康障害に至るかを明言することはできません。

石綿(アスベスト)肺に関しては、おおむね10年以上の職業性アスベスト暴露(=ばくろ。ある物質を吸収したり、吸入したり、触れたりすること。職業により、ある特定の物質に接する機会が一般人よりも多くなり、その物質の暴露が大きくなるような、特殊な労働環境下における暴露を職業暴露という)を受けた人のみに発症事例があり、たとえ職業性アスベスト暴露を受けていても期間が短ければリスクは少ないと言えます。ただ、それ以外の悪性中皮種、石綿(アスベスト)肺がん、胸膜肥厚斑などは、低濃度の短期間暴露でも発症事例があることから、どこからが危険かの線引きは難しいのが現状です。

アスベストの単繊維が空気中に浮遊する場面とは、基本的に製造・加工場所および改修・解体など設置済みのアスベスト含有建材に手を加える場所とタイミングとなります。もちろん、日本の都市圏では普段から微量のアスベスト浮遊は観測されていますが、一般大気中の暴露だけでの発症事例は現在のところ無いことから、やはり危険性が高い環境は製造・加工場所と改修・解体場所ということになります。

現在アスベスト加工を行う工場は存在しないことから、職業性アスベスト暴露とは無縁の人がこれから吸引するアスベストに起因する、アスベスト関連健康被害を発症することは考えにくいことです。しかしクボタショックと呼ばれた、アスベスト加工工場による周辺住民のアスベスト関連病の発症が示すように、細かな単繊維のアスベストが空気中を浮遊して広い範囲で被害が拡散する事例もあることから、今後はどのような被害が発生するかは断言できない怖さがあります。

また、数は少ないものの建物にある吹付けアスベストに起因するアスベスト関連病の発症により労災認定された方が、職業性アスベスト暴露による労災認定者の1%程度存在します。アスベスト含有のひる石(バーミキュライト)を吹付けた天井などは、経年劣化と日常の振動によってアスベストが空気中に浮遊する恐れがあることから、該当する住宅に住む方は早急にアスベストの除去または封じ込め処置が必要となります。

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潜伏期間が長い…アスベスト関連の病気や死亡例は今後増加へ
アスベスト輸入量と中皮種死亡数の推移 中皮種死亡数厚生労働省都道府県別にみた中皮腫による死亡者数の年次推移(平成7年〜平成29年)人口動態統計(確定数)出所:財務省「貿易統計」

「アスベスト関連被害」は、これから広がっていく
アスベストは最大の特徴である小さな繊維形状であるため、吸引を続け蓄積されることで肺がんや中皮種を引き起こします。肺がんでは喫煙の蓄積が原因の最たるものとなるように、アスベストだけが原因ではなく、遺伝性や患者の生活環境も影響していると言えますが、悪性中皮腫に関してはアスベストとの関係性が強いと考えられています。

中皮種を発症するまでの潜伏期間が40年程度とかなり長期にわたる潜伏期間があることや、個人によって発症のタイミングはバラバラであることから、相関関係を明らかにすることはできません。上記のアスベスト輸入量と中皮種死亡数の推移を見比べると、今後中皮種による死亡数は増加するのではないかと考えられています。

アスベストと関連疾病、そして中皮種との因果関係として参考となるのが、早くは1931年からアスベストに対する規制が始まり1999年にはアスベスト関連製品の全面禁止が行われたイギリスです。イギリスでの全面禁止は1999年とあまり日本と変わらないものの、アスベスト濃度規制のためにメーカーにとって粉じん対策コストが増大したことから、メーカー側が自主的に禁止した時期が早く、1973年をピークにその使用量が激減し、1980年以降は使用実態が極めて少ないという事実からも、日本に先んじたアスベスト関連疾病の動向がうかがえます。

アスベストの原産国はロシア、カナダ、南アフリカ、中国、ブラジルが主要な国で、ほとんどが輸入に頼っていたことから、輸入量=使用量と考えて問題ないでしょう。日英を比較してみると、アスベスト使用量は日本のほうが倍近くと多く、20年程度遅くまで使用がされていたことがわかります。つまり、現時点においても中皮種死亡者数がピークアウトしていないイギリスの実態を踏まえると、日本はまだこの先も死亡者数がしばらくの間は増え続けることが予想されるのです。

2000年代に入り、アスベスト製品の使用禁止や除去に関わる作業指針が急速に整備され、近年になってその対策が進められた原因は、こうした先行事例による健康被害および関連病による死亡者が増加することを踏まえての動きであることは明白です。

建設業界の中では、改修・解体工事を発注する施主にとって想定されていないアスベスト関連費用が問題となり、現時点でもアスベストの存在を隠したり知らないふりをしたりして何も対策をしないケースがあると見聞きします。

これからアスベスト関連の病気や死亡例がどんどん増加すれば、社会問題としてクローズアップされるでしょう。ビルや倉庫といった大型の施設だけではなく、一般住宅にも存在し得るアスベスト製品の適正処分は持ち主の責任であることから、建造物を所有するオーナーには決して事実を見過ごさず、正しい行動をとっていただきたいものです。

石川 達也
 

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