【全労連事務局長談話】
労働者を分断しながら「意識改革」と企業への従属を強い、賃金引上げに応えず、企業の責任を免罪 2020年版 経団連経営労働政策特別委員会報告について
2020年1月22日
全労連事務局長 野 村 幸 裕
1月21日、経団連は20春闘の経営側の指針となる「経営労働政策特別委員会」の報告を発表した。報告は一貫して「経済の先行き不透明」「経済や企業の大きな構造変化」をあげ、ソサエティ5.0による経済構造の変化の中にあっても競争力を強化し「生産性の向上」を図るとともに「事業再編」時代を強調している。
そのため「働き方改革」では、長時間労働を強いる「高度プロフェッショナル制度」の活用や「裁量労働制」適用拡大を求めると同時に、「働き方改革」を労働時間短縮の段階から「成果の質・量の増大」の段階への変化が必要としている。成果増による生産性の向上のために「様々な属性、キャリア、価値観を有する多様な働き手」による企業組織をつくるとした。この組織を実現するために「新卒一括採用」や「終身雇用」「年功序列賃金」に加えて仕事や勤務地、報酬を限定した「ジョブ型雇用」の導入と相互の入れ替え、労働市場の流動化の促進を求めている。これは雇用を更に細分化し、労働者を分断させ、「経営環境の変化に応じて」業種の変更や撤退を前提に雇用を一層不安定化させるものであり、日本の雇用制度の特性をさらに発揮するための検討をすべきである。
さらに労働市場の流動化に対応できるように、労働者に自らの時間と費用によるキャリアアップを求めている。これは経営者としての責任を放棄し、特定の企業のために労働者の実質的な生活費を減少させ、無防備で競争市場に放り出すものである。また、会社と自らの成長の方向性の一致=「ともに成長する」心と組織や仕事に主体的に貢献すること(エンゲージメント)を求めている。しかし賃金は「生産性向上に伴って安定的に増大した付加価値を原資」とし、「成果や業績」で決定するとしている。この矛盾は企業への従属性をさらに強めようとしている姿勢の表れである。そもそも賃金は労働の対価であり、労働に心の従属はなく、賃金額は生計費を基本として決定すべきだ。
「業種変更や撤退」を前提に経営者の責任を免責し、労働者や地域・関連企業を使い捨てにする報告に貫かれている考え方に強く抗議し、労働者の働く権利の保障と企業の経営者や企業の責任の明確化、今報告では触れられなかった内部留保の労働者・中小企業への還元を求める。
「労使交渉協議における経営側の基本的スタンス」では、経済状況について世界経済の不安定や消費税増税の影響、東京オリンピック・パラリンピック後の需要反動減など「企業収益の下押しされる懸念」「不透明感」を表明した。さらに労働時間短縮や均等待遇によるコスト増への配慮を総額人件費の管理を強調している。「賃金引上げ」の勢いの維持に向けた前向きな検討を基本とするとしたものの、「多様な方法による賃上げ」と「総合的な処遇の改善」での対応を求めている。「多様な方法による賃上げ」では、「全体的なベースアップ」を「一律的な賃金要求は適さない」として「選択肢」にとどめ「重点的なベースアップ」として年齢や査定結果による配分を「現実的」としている。さらに「賞与・一時金」でも成果・査定結果の支給増が可能とし、企業の業績による増減も可能なことから積極的な活用を求めている。
総人件費抑制を前提に、経済悪化の中での労働者の実態を反映したベースアップによる賃金引上げではなく、企業論理を優先させ、賃金を「企業の収益の配分」に止める姿勢は看過できない。景気の先行きが不透明であれば、これまでため込んだ内部留保を労働者の大幅賃金引上げや均等待遇の実現、中小企業に還元し、経済の好循環を図るべきである。
「総合的な処遇改善」でもエンゲージメントの向上を通じて新機軸の創出力を高め、ソサエティ5.0の実現につなげる視点からの改善となっている。そのため労働時間や働き方の施策、福利厚生もエンゲージメントの観点からの見直しをも求めている。労働者の健康や職場環境の整備、社会的役割などを、企業の利益と「柔軟な」業務変更等に従属させるものである。
最低賃金の引き上げに対して「生産性向上から乖離した改定」であり、「中小零細企業において、雇用期間の減少や雇用の削減、ひいては事業の継続不能につながることが懸念される」とし、「経済や雇用環境への影響や効果」の検証を求め、「生産性向上」範囲内での改定を求めている。しかし、最低生計費資産調査の結果は、今の最低賃金の水準では「人間らしい生活ができない」こと「標準生計費は全国どこでも変わらず、1500円程度必要なこと」が明らかになった。最低賃金の引き上げは経営問題だけではなく総合的な政策課題である。大企業は重層的産業構造において、下請け単価を切り上げるなど内部留保を活用した政策実現への努力が可能である。
全労連は経団連に対して、自らの役割を明確にした最低賃金の引き上げに向けた取り組みの強化を求めると共に、政策課題として2020国民春闘において全国一律最低賃金制度の確立を求める運動を強化する。
報告では「業種や企業ごとにばらつきがある」こと、また「労使自治」を強調し、春闘の「業種横並びによる集団的賃金交渉は実態に合わなくなってきている」「個々人の処遇の違いが明確化」していくにつれ、「全社員を対象とした一律的な賃金要求は適さなくなってきている」として春闘を否定している。賃金要求は生計費に基づく要求である。個々の労働者では対抗できないため、集団で労働組合をつくり、同業種間の企業競争などを理由とした賃金抑制を許さないため産業別の統一闘争をつくってきた。企業の利益のおこぼれが賃金ではない。
全労連は2020国民春闘において産業別統一闘争、全国統一闘争をさらに強化し、大幅賃上げ・底上げを実現する決意である。
以 上