学校の働き方改革「以前」の問題―残業の「見えない化」と「Why タイムカード?」 (12/31)

学校の働き方改革「以前」の問題―残業の「見えない化」と「Why タイムカード?」
https://news.yahoo.co.jp/byline/senoomasatoshi/20191231-00157231/
妹尾昌俊 | 教育研究家、学校業務改善アドバイザー、中教審委員(第9期)
2019/12/31(火) 15:11

〔写真〕ある小学校でのタイムレコーダー

■約半数の市区町村では学校にタイムカード等がない。これだけ長時間労働が問題視されているのに!

 昨日のNHKのニュース、学校でタイムカードなど客観的な方法で把握をする市区町村は、5割未満と報じられました。

「教員の長時間労働が問題となる中、タイムカードなどで勤務時間を客観的に把握している市区町村は5割未満で、依然として自治体間の取り組みに差が大きいことが文部科学省の調べでわかりました。

(中略)

群馬県は97.1%、山口県は94.7%などと、9割を超えるところがある一方で、三重県は6.9%、鳥取県は5.3%と1割に満たないところもありました。」
出典:NHKニュース2019年12月30日

 これは、文科省調査をもとにしたもので、2019年7月時点のものです(「教育委員会における学校の働き方改革のための取組状況調査」https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/uneishien/detail/1407520_00003.htm)。元資料の該当箇所を掲載しておきます。

〔図〕【問1】域内の学校における「在校等時間」等*の把握方法について該当するもの(複数回答)

 政令市はタイムカード等の実施率は高いのですが、市区町村では、まだ自己申告のところも多いですし、「把握していない」も13%あります(驚)!「校長等が確認している」という項目もあるのですが、これでは、校長か教頭は全員が帰るまで帰れませんね・・・。

 まだまだ多くの学校が、出勤簿にハンコという慣習を続けています。もう令和なのに、昭和か?って感じですけど。なお、これは使用者責任(=教育委員会と校長の役割)ですので、個々の先生方が悪いわけではないです。

※なお、休憩や業務外の時間を除くため、タイムカード等で記録をとっても、自己申告により一部を控除するという方式をとることもあります(併用)。小学校などでは休憩時間も取れていない問題も深刻ですが。

■時間管理していても安心できない。2割以上で過少申告が横行?
少し前に同じNHKでも出ていました。石川県教職員組合が、小中学校などの教職員を対象にアンケート調査を行った結果、「残業を過小に申告したことがある」と回答した割合は26%でした(NHKニュース、2019年12月16日)。

 2018年6月には、福井市立中学校で、教頭がある教員の出退勤記録(時間外が100時間超)を無断で改ざんした上に、教員に過少申告するよう促していたことが発覚しました(THE PAGE 記事https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180618-00000004-wordleaf-soci)。

 ここでは詳述しませんが、私立学校でも問題はたくさんあり、時間管理や36協定すら、きちんとしていない学校・学園もかなりあります。労基署の指導がたくさん入っています。

■残業の「見えない化」
以上紹介したことは、氷山の一角かもしれません。Twitter上にもたくさん事例、声は出ています。また、もっと多いのは、「退勤時間は早くなったが、結局自宅等への持ち帰り仕事が増えただけ」ということがあちこちで起きています。

 過少申告やシャドーワーク(隠れた残業)が起こると、見かけ上は、残業時間が減っていますから、教育委員会や(私立学校の場合)理事会等は安心してしまいます。

 こんな詐称“働き方改革”なら、やらないほうがマシです。「残業の見えない化」が進み、問題を見えなくしているのですから。

■Why タイムカード? なぜ正確な時間管理が大事なのか
●出退勤の時間管理すら、なおざり(市区町村でタイムカード等の予算すら取っていない、取れていない)。

●タイムカード等をやっていても、過少申告や虚偽申告が起きている。

●月45時間などの目標は降りてくるが、そのつじつま合わせに走り、結局、自宅残業などが増えている。

 これでは、だれもハッピーになりませんね。

 この要因には、さまざまなものがあります。市区町村の財政が厳しいことなども影響しているでしょうし、なにぶん公立学校は、残業代もかからない特殊な法制度(給特法)であったことも影響しているでしょう。

 また、過少申告があるのは、時間外が80時間などを超えると、校長や教育委員会の指導が入ったり、医師の面談に行けと催促されたりして、それが面倒だからです。前述の石川県教職員組合の調査によると、過少申告した教員のうち、約79%が「指導・面接が負担」と述べています。

(写真素材 photo AC)
それなりの事情があることが分かります。

 ですが、より根本には、教育委員会や校長、そして教職員のなかにも、「正確な時間管理がいかに大事か、という認識が不足している」問題があると思います。

 ぼくは、全国各地で講演、研修などをしていますが、教育委員会や校長に、「Why タイムカード? なぜ時間管理なんてしないといけないんですか?」と職員から聞かれたら、どう答えますか?ちゃんと理由を説明できますか?と問いかけています。

■3つの理由
1つ目は、法令やガイドラインで必要とされているからです。

 労働安全衛生法が2019年4月に改正施行されて、客観的な方法による把握は義務となっています(労働安全衛生法第66条の8の3)。それ以前にも厚労省は「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29 年1月20 日)などで時間の記録が必要であることを啓発してきました。

 つまり、好き嫌いの問題ではないのです。たまに、教育委員会や議員さん、教員のなかには、「教員は校長の細かな命令で動くのではない。裁量のある仕事をしている。だから、時間管理など、なじまない」とおっしゃる方がいますが、そういう問題ではありません。法律で必要とされているのですから。

 本来はこの理由だけで十分なのですが・・・、学校の先生たちは法令上必要とだけ言われても、やらされ感が募るんですよね。なので、ぼくの研修等では、ほかの理由もお話ししています。

(写真素材:photo AC)
2つ目の理由は、振り返りのためです。

 授業のリフレクションが大事なのと同様に、自身や学校の働き方もリフレクションしましょう、ということです。

 非常に多くの先生が、子どもたちのためならばと一生懸命働いています。過労死ラインを超えてしまっている人が大半です。知らず知らずのうちに健康を害する人もいます。とても悲しいことですが、教員の過労死は、毎年のように起きていて、ここ数年、働き方改革がクローズアップされてきたにもかかわらず、あとを絶ちません。

 記録があることで「過労死ラインを超えるほど働いているな」とか、「このままいくと、月45時間超えるペースで健康にもよくないな」といった感覚が出てきます。

 「指導や面接が必要となって面倒だ」という気持ちも分からないではないですが、健康より優先させるものはありませんから、面倒でも正確な記録は残していかないといけません。

 また、校長や教頭の多くは、職員室で忙しすぎる人は感覚的には分かっているとは思います。ですが、時間というデータも見ながら、業務量の調整をしたり、業務や健康の相談にのったりするように動くために、出退勤管理は重要です。決して教育委員会から「やれ」と言われたからやっているのではありません。

 逆に言えば、業務量の調整や職員の健康確保に向けて動けないなら、現場に管理職を置いている意味はありません。決裁文書にハンコを押しているだけでは、労務管理でも、健康経営でもありません。

 ぼくは、研修等では、「タイムカード等は“体重計”のようなものですよ」とお話しします。ダイエットしたい人で体重計にのらない人はいませんよね?これと同じ理屈で、正確なモニタリングをしようということです。

 ただし、体重計にのっただけではダイエットにならないのと同様、業務や行事の見直しなど、学校の仕事を減量させていく努力も同時に必要です。

 3つ目の理由。これは、日本中の先生方(公立だけでなく、国立、私立にも)にお伝えしたい。万一、過労死や精神疾患などの病気となったとき、正確な記録がないと、あなたの家族や恋人がもっと悲しむことになります。

 実際、過労死の疑いがあり、裁判で10年前後争っているケースもあります。なぜ揉めるのかといえば、学校には正確な出退勤記録がないために、本当に働き過ぎのせいだったのか立証が難しいからです。

 万が一のときの公務災害認定や労災認定のためにも、自己申告だろうがタイムカード等だろうが、正確な記録は必須です(客観性の高いタイムカード等のほうが望ましいですが)。

 出退勤管理は、働き方改革や業務改善に向けた初歩中の初歩です。体重計にのるというだけ。この体重計すらくるっていたら、どうしようもありません。

◎この記事は、拙著に加筆修正してアップしました。書籍のほうもぜひご覧ください。

『こうすれば、学校は変わる! 「忙しいのは当たり前」への挑戦』

<参考記事>

◎学校に必要なのは、働き方改革「以前」の問題に向き合うこと、勤務時間管理から

◎学校の働き方改革の実施状況調査、教育委員会の本気度がわかる

◎妹尾の記事一覧


妹尾昌俊
教育研究家、学校業務改善アドバイザー、中教審委員(第9期)
徳島県出身。野村総合研究所を経て2016年から独立し、全国各地で学校、教育委員会向けの研修・講演などを手がけている。学校業務改善アドバイザー(文科省、埼玉県、横浜市等より委嘱)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁の部活動ガイドライン作成検討会議委員、NPO法人まちと学校のみらい理事。主な著書に『変わる学校、変わらない学校』、『こうすれば、学校は変わる! 「忙しいのは当たり前」への挑戦』、『学校をおもしろくする思考法―卓越した企業の失敗と成功に学ぶ』、『「先生が忙しすぎる」をあきらめない』など。4人の子育て中。
 

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