社説 70歳就業法案 安心して働ける仕組みを
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信濃毎日新聞 2020年2月9日
希望すれば70歳まで働けるよう機会を確保することを企業の努力義務とした法案が今国会で審議される。
安倍晋三政権が掲げる全世代型社会保障改革の目玉政策だ。来年4月の実施を目指し、高年齢者雇用安定法などの改正案が閣議決定された。
総務省の2019年労働力調査によると、65歳以上は就業者が892万人を数え、4人に1人が仕事に就いている。
少子高齢化が加速する中、元気な高齢者に長く働いてもらうことで、社会保障制度の担い手を増やし、人手不足の解消にもつなげたい狙いがある。
ただ加齢とともに体力や注意力が衰え、健康問題を抱えることも多い。安心して意欲的に働ける仕組みを、国がしっかりと整えておく必要がある。
現行法は▽60歳定年の廃止▽定年延長▽継続雇用制度の導入―の選択肢を設けて、企業に対し希望者全員を65歳まで雇うよう義務づけている。
改正案は、70歳までとする努力義務とともに▽起業やフリーランスを希望する人への業務委託▽自社が関わる社会貢献事業に従事させる―が選択肢に加わった。
起業やフリーランスは企業との雇用関係がなくなる。最低賃金や労働時間規制といった保護が受けられず、収入も不安定だ。
働く側が不利益を被らないようにする仕組みがないと、使われない選択肢になってしまう。
身体機能の低下による労災も心配だ。厚生労働省によると、18年の60歳以上の労災死傷者(休業4日以上)は約3万3千人で全体の26%を占めている。
本人が思っている以上に体力が持たなかったり、無理をして体を壊したりすることが多い。
体の状態に合った仕事内容になっているか、企業側の配慮はこれまで以上に重要になる。福利厚生の充実も必要だろう。
高齢者の継続雇用は、現役世代の賃下げや若者の採用抑制につながる恐れがある。非正規労働者の待遇にも影響が及ぶ。
企業側は、人事や処遇のあり方、働き方を変えないと、対応が難しくなる。
人材に限りがある中小企業には負担が大きい。相談体制を整え、必要に応じた支援策を講じていくよう国に求めたい。
政府は、努力義務を、将来的に義務化とする方針だ。各世代の働く人に問題は生じないか、本当に社会保障制度の安定化につながるのか。つぶさな検証が要る。
(2月9日)