第42回 いったい雇用とは何だろう

いま08恐慌による大不況のなかで、非正規労働者の首切り・雇い止めが大問題になっています。これから数回にわたって非正規雇用をについて考えていきますが、今回はその手始めにいったい「雇用」とは何かについて考えることにしましょう。

ネットで読める国語辞典の「大辞林」で「雇用」を引くと、次のような説明があります。

(1)仕事をさせる目的で、有償で、人を雇うこと。

(2)民法上、当事者の一方が相手方に対して労務に服することを約し、相手方がそれに対して報酬を与えることを約す契約。

(3)労働者が事業主の支配を受け、その規律の下に労働を提供し、その対価の支払いを受ける関係にあること。

何か肝腎な言葉が抜けているとは思いませんか。雇用とは労働者の側から言えば賃金労働(賃労働)のことですが、上の説明には「報酬」や「対価」という言葉が使われていて、「賃金」という言葉はありません。そこで同じ辞典で「賃金」を引くと、「労働者が労働力の対価として受け取る報酬。貨幣で表示された労働力の価値。労賃。給料」と出てきます。この賃金という概念を用いていうなら、「雇用」とはさしあたり「労働者が使用者に自己の労働力を販売して一定の時間決めで労働を提供し、その対価として賃金を受け取る関係」と定義することができます。

賃金は雇用の核心ですが、賃金が支払われさえすれば、いつでも、どんなかたちでもいい、というわけではありません。労働基準法では、賃金は、通貨で(現物ではなく)、直接労働者に、全額を、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければなりません。また、いくらでもいいというわけではなく、最低賃金法は、使用者は、最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない、と定めています。

時間も決定的に重要です。雇用では、労働者は使用者に労働力を一定の時間決めで繰り返し売ることが前提になっています。普通の商品は、売られたあとの処分は「煮て食おうと焼いて食おうと」買い手の自由にゆだねられますが、労働力という商品の場合は、売り手である労働者は売られたあとの商品の使われ方、すなわち働かされ方について、買い手である使用者に文句を言うことができます。また法律は、労働者のまともな働き方/働かされ方について、いろいろなルールを設けています。その一つは「1週40時間、1日8時間」という労働時間の上限です。

ご承知かもしれませんが、ILOは雇用の根本原則として「労働は商品でない」という原則を掲げています。これは労働(労働力)は商品として売買されているが、売られたあとの消費を一般の商品のように買い手の自由にゆだねてはならず、また一般の商品のようにその売買を取引業者や仲介業者に任せてはならない、ということを意味しています。

そこで、あらためて雇用とは何かと問えば、それは「賃金や労働時間が法定の最低基準を満たし、働く権利が保障され、安定していて、社会保険や雇用保険などの社会的保護が与えられているもとで、労働者が使用者に自己の労働力を販売して一定の時間決めで労働を提供し、その対価として賃金を受け取る関係」のことだと言えます。

もちろん現実にはこれにあてはまらない雇用もあります。しかし、少なくとも「まともな雇用」の条件は上記のように定義できます。この定義に照らせば、近年急増している非正規雇用と呼ばれるパート、アルバイト、派遣、契約社員、嘱託などの労働契約は、まともな雇用とはいえません。

とりわけ派遣は、労働者が勤め先から賃金を得ておらず、労働条件が労働者と使用者との契約ではなく、派遣先と派遣元の商取引で決まっている点で、どうみても「雇用」とはいえず、「非正規雇用」とも「名ばかり雇用」ともいえないような働かせ方です。

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