小倉一哉『エンドレス・ワーカーズ―働きすぎ日本人の実像』日本経済新聞出版社
過労死寸前!?「限界」を超える
日本人の労働時間
『週刊エコノミスト』2008年1月15日号
著者は、労働政策研究・研修機構の主任研究員で、日本の労働時間について緻密で膨大な調査研究を重ねてきた。その成果を一般向けの平明な書物として公刊したのが本書である。
日本人はどれほど働いているか。本書から数字を拾えば、男女計の月平均は約200(男性206、女性184)時間ある。男性の5人に1人強は月240〜300時間にも及ぶ。40時間×4週を基準にすれば月80〜140時間の残業をしていることを意味する。
これは厚生労働省が過労死の発症との関連性が強いと認める残業時間の危険域にある。人間として生命を維持する「限界」を超えている点で、日本人の労働時間は、まさに表題にいうように「エンドレス」である。
なぜ残業をするのか。理由は多様と思われるかもしれない。しかし、調査では複数回答の6割が「所定労働時間内では片づかない仕事量だから」、4割が「自分の仕事をきちんと仕上げたいから」と答えている。「残業手当や休日手当を増やしたいから」は5%もない。
ストレスと労働時間の関係についての調査でも、多様な選択肢のなかで明確な関連が見られたのは、「働く時間が長い」と「仕事量が多い」の2つであった。
「ホワイトカラー・エグゼンプション」制度(WE)があるアメリカでは、ホワイトカラーの4割、全労働者の2割が残業手当の支払いから除外されている。著者の推計では日本でも、管理監督者(「名ばかり管理職」を含む)と裁量労働制の適用労働者を合わせれば、労働時間管理を受けないか、時間管理が緩やかな労働者が最大2割弱いる可能性がある。とすれば、日本はWEの導入を待たずして事実上エグゼンプション状態にあるといえよう。
正社員だけでなく、パート、アルバイト、派遣、契約社員などの非正規労働者の間でも長時間働く人が増えている。日本のパートの労働時間は、正社員に比べれば短いが、ヨーロッパの基準で見れば、限りなく正社員に近い。しかも、近年では、パートの残業をした人の割合も、残業時間も目立って増えている。本書で紹介されているUIゼンセン同盟の調査によれば、女性独身パートの1割強が頻繁にサービス残業をしており、月平均サービス残業時間は10時間を超える。
労働時間をきちんと管理し、労働基準法の実効性を確保するためにも、エンドレスに働いている人々にぜひ読んでいただきたい力作である。