3月は身辺がいつになく取り込んでいたうえに、拙著『強欲資本主義の時代とその終焉』(桜井書店)の校正に追われ、この連続講座は1回しか書けませんでした。その校正も昨日終わり、4月中旬には出版される運びになりました。言い訳けついでに、新しい拙著の概要を紹介させていただきます。
序章「現代とはどんな時代か」
新自由主義が猛威を揮い、アメリカ主導のグローバリゼーションと交錯しながら、金融と雇用の規制緩和が進んだ1980年代から今日までの資本主義を「強欲資本主義」と呼び、2008年恐慌によって新自由主義が破局を迎えるまでの世界と日本の動きを概観する。
第?部「現代資本主義の全体像と時代相」
第1章「現代資本主義論争によせて」
1995年の経済理論学会全国大会における北原勇氏、伊藤誠氏、山田鋭夫氏の報告を手がかりに、三氏に共通する理論的・方法的問題点を検討し、ついで三氏の主張が分かれてくる理由を示すことをとおして、現代資本主義論をめぐる論争に参加する。
第2章「現代資本主義の現代性と多面性」
歴史的実在としての資本主義の「いつ」をもって、また「なに」をもって現代資本主義とするかを検討し、現代資本主義の「現代性」と「多面性」を問う意味を述べ、現代資本主義の全体像を問うこととは資本主義の原理像の問い直しをも迫るものであることを明らかにする。
第3章「雇用関係の変容と市場個人主義」
現代資本主義における労働市場の変化は、労働力の売り手としての労働者が、同時に消費者や投資家でもあることに深くかかわっていることを踏まえ、現代資本主義の諸変化が、雇用関係への市場個人主義の浸透に現実的基盤を与えてきたことを明らかにする。
第4章「株主資本主義と派遣切り」
2002年から2007年にかけて株主重視の企業経営の流れが勢いを増し、株主配当が増えた反面で、人件費が切り下げられ、労働分配率が大きく下がったことを明らかにする。それとともに、製造業においては2008年恐慌による生産の落ち込みで乱暴な派遣切りが大規模に行われたことを確認する。
?「日本経済と雇用・労働」
第5章「バブルの発生・崩壊と1990年代不況」
1980年代の株価と地価の異常な上昇をともなったバブル景気と、バブル崩壊にともなう1990年代の長期不況を取り上げて、バブルの発生・崩壊のメカニズムを検討するとともに、日本的経営システムの変容を金融システムの面から跡づける。
第6章「悪化する労働環境と企業の社会的責任」
過労死とワーキングプアに象徴される近年における労働環境の悪化を、強まる働きすぎと増大する非正規労働者の実態に即して考察し、株価至上主義経営が強まるもとでのCSR(企業の社会的責任)とSRI(社会的責任投資)の流れに関連して、株式会社の社会的責任に説き及ぶ。
第7章「労務コンプライアンスとサービス残業」
総務省「労働力調査」と厚生労働省「毎月勤労統計調査」によって1980年代以降のサービス残業の推移を概観するとともに、サービス残業の手法と実態の把握を試み、あわせて、厚生労働省の労働基準行政がサービス残業の是正と解消にどのように取り組んできたかを振り返る。
第8章「非正規労働者の増大と貧困の拡大」
『就業構造基本調査』などの労働統計にもとづいて、近年における非正規労働者の増大と所得階級別分布の変化を踏まえ、ブルーカラーと比較しながらホワイトカラーの貧困化の実態に迫る。それとともに、米英におけるワーキングプアの現状に関するいくつかのルポルタージュを紹介する。
終章「新しい経済社会のあり方を求めて」
2008年恐慌が強欲資本主義の時代の終焉を告げているという認識のもとに、ポスト新自由主義の時代の資本主義のゆくえと新しい経済社会のあり方を展望する。