前回の「脱線休講」の1回前に、「(1980年代末における)企業社会日本の完成は、実は企業社会日本の衰退の始まりでもありました」と書きました。衰退は、非正規労働者と失業者の増加にともなう、雇用の解体と賃金の下落に表れています。
雇用解体の深刻さを端的に示しているのは、文科省と厚労省から先頃発表された、来春卒業予定の大学生の内定率です。新聞やテレビにも一斉に報道されたのでご存じの方も多いでしょうが、本年10月1日現在における内定率は、57.6%(男子59.5%、女子55.3%)でした。これは昨年同時期と比べて4.9ポイントの減で、1996年に調査が開始されて以降最悪の数字になっています。
就職内定率は調査時点における就職希望者に対する就職内定者の割合を表します。ということは、57.6%という内定率は、就職希望者の4割以上がいまだに就職が決まっていないことを意味します。この数字は年度末までにはもう少し改善されると期待されますが、それでも、前年同期比4.9ポイント減という数字をもとに計算すると、来年4月1日時点の就職希望者を分母とした就職率は、今年4月1日現在の92%から87%に下がるものと予想されます。
この定義における大学生の就職率は、年度末に近づくと、未内定者のほとんどが内定獲得を諦め、当該年度内の就職希望者ではなくなるので、通常は、95%とか、98%といった高い数字になります。実際、1昨年度の就職率は96%でした。これと比較すれば、87%という現時点の予想就職率は、異例に低いと言わなければなりません。
下がっているのは内定率だけではありません。「就職希望率」(卒業予定者中の就職希望者)も、今年の10月1日現在調査では、昨年同期比で76.4%から73.6%へ、2.8ポイント下がっています。これは留年、大学院進学、専門学校や外国の学校への入学などの進路を選択する者が増えていると同時に、そのなかに含まれる潜在的な就職浪人も増えていることを示唆しています。
悪化しているのは、就職内定率や就職希望率などの数字だけではありません。私は大学教員になって、40年余りになりますが、現在ほど学生が企業に翻弄され、打ちのめされたことはなかったように思います。あるいは就職前の希望と就職後の現実のギャップが今ほど大きかったことはなかったと言えます。そのことを露骨に示しているのは、ブラック企業の存在です。